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第4章
2
また、1週間経った。
少し遅かった今年の桜。
桜がやっと恥らうようにして、そのつぼみを見せたかと思っていたら、
急に咲き誇るように、街を桜色に染めていった。
僕と沙雪は、同じように同じ場所・同じ時間に待ち合わせた。
僕は、沙雪と落ち合うと、
これまた、いつもの場所となりつつある「Feel」へと、
ゆっくりと歩を進める。
けれど、僕の隣にいるのは「沙雪」ではなく、
もう、それは「かえで」のようだった・・・。
いや、「かえで」そのものだった。
彼女は、少し、ブラウンがかった長くストレートだった髪を、
ショートカットにし、黒髪に染め直して、
この前も履いていたミュールを低めのものにしていた。
「・・・久しぶり・・だね・・」
待ち合わせ場所から「かえで」だった。
今日、出会った瞬間から、
彼女は「かえで」になっていた。
「・・・あぁ。ほんとうに久しぶり・・・」
僕は、エスコートするようにして「Feel」への坂道を歩く。
2人を包むように並木道がずっと続いていく。
春の日差しが木漏れて、ときおり目にまぶしい。
風は、少し汗ばむような陽気の今日には、さわやかに感じる。
「Feel」という木製の小さな看板。
擂りガラス張りで囲まれた空間。
僕が先になって、入っていく。
注文は、僕が決めたものを彼女も頼む。
僕がアイスコーヒー。
アイスティーとモンブランのセットが彼女だ。
「・・・急に、連絡くれたから驚いたよ・・・」
彼女は、少し微笑みながらアイスティーに口付ける。
「・・・あぁ。」
「・・・ね。それで、言いたいことって何・・・?」
「・・・あぁ。うん・・それは・・・」
彼女は、じっと僕の目を見つめる。
そして、僕の言葉を待っている。
僕の声を・・・。
僕の気持ちを待っている。
「実は、今日君と会いたかったのは・・・
君に伝えたいことがあったからなんだ・・・」
僕は、グラスのアイスコーヒーを一口飲むと、
ゆっくりと話し掛けるようにして、切り出すことにする。
それは、自分の気持ちが、ストレートに伝わるように。
そんな思いだった。
「僕は、ずっと君のことが好きだった」
「僕が、部活から帰るとき、いつも・・・
君が、ブラスバンド部の練習をしている音色が聞こえていた」
「ずっと、クラスメイトだったのに、なかなか話し掛けられなくて・・・
僕は、勇気が無くて・・・。
君にこの思いを伝えたかったのに、いままで伝えられなかったんだ」
「だから、あの時の思いを君に伝えたかった・・・」
「君のことが好き。だと・・・」
僕は、ならべくゆっくりと話し掛けるように心がけた。
彼女は、視線をそらすことなく、
僕の一つ一つの言葉を大事に聞いていてくれていた。
「・・・ありがとう・・・」
彼女は、僕の目を見て微笑んだ。
僕は、その微笑んだ顔が好きだった。
すっと・・・。今も・・・。
次へ。
へ へ
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