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第1章
4
「ゆとり〜!」
僕とゆとりは、いつの間にか、はぐれていた。
駅から川沿いまでの道は確かに隣に居たのに・・・。
川岸に来たあたりで知らぬ間に、隣に居なくなっていた。
僕は、少し恥ずかしかったけど・・・。
大きな声で「ゆとり」を叫んだ。
ゆとりの浴衣姿をずっと追いかけた。
すれ違う人。すれ違う人が僕を見ている。
少し。あわれに思うような眼差しが僕を見ている。
そんなことは、もう、どうでも良かった。
僕はただ、ただ「ゆとり」を追いかけた。
僕は追いかけた。
身体は熱が高くなっていく。
汗だくになっていく。
浴衣を着て、少し肌蹴させても・・・。
暑かった。
額から流れる汗が目にしみる。
ダンダン心が焦っていく・・・。
一所懸命に探した。
この夏一番大きい地域のイベントだから。
遠方からやってくる人もいて、
この花火大会の周りは、人が多い。
大人の人も沢山居る。
背が低い僕ら、小学生に遠くは見えない。
だから、駆け抜けるようにして探すしかない。
僕は、走り回って。
歩き回って。。
「ゆとり」を迎えに行く。
そう、胸に誓って、その一心で探し回る。
そのうち、開演時間はとっくにやってくる。
花火がドンドン打ちあがって。。
とっても、綺麗な花火なのに・・・。
僕はそれにも目をくれず、探し回って・・・。
探しつづけて・・・。
でも、見つけられない・・・。。
「たまや〜」
周りの歓声。
打ちあがる花火の明かり。
僕は、それも見ずに探す。
「ゆとり」と一緒に見たくて。。
「ゆとり」の浴衣姿。
「ゆとり」と一緒に見なければ、花火なんてどうでも良かったから。
5
けれど。。
花火大会は終わる。
汗だくになった身体だけが残った・・・。
結局、探せずに。。。
僕は一人、帰り道を行く・・・。
帰り道はとっても長かった・・・。
行く道、2人で歩いた同じ道。
うつむきながら帰る道は、とても長かった。
一緒にみるはずだった「ゆとり」の顔。
「ゆとり」の浴衣姿。
「ゆとり」が浮かぶ。
僕と「ゆとり」で花火を見れたら・・・。
きっと、楽しい時間が過ごせた。
「ゆとり」も喜んでくれたに違いない。
そう思うと。。
「何で、見つけられなかったんだ」
「もっと、もっと探す方法があったんじゃないか?」
「だいたい、こんなことになるなら。。
恥ずかしがらずに。。
手をつないで歩けば良かったんだ・・・。」
こんな言葉が何度も頭に巡った。
自分が情けなくて。
悔しくて。。。。
唇をギュッとかみ締めて、涙を堪えた。
夜空に浮かぶ、星を見上げて・・・。
6
次の日。
朝になって、すぐに「ゆとり」が会いに来た。
「昨日は。。ごめんね・・」
ゆとりは、まっすぐに僕を見る。
少しだけ背の高い僕を見上げるような眼差しで見る。
「私、はぐれちゃって・・・。
ずっと、かなめ君のこと。探したんだけど・・・。
見つけられなくて。。」
「・・・謝ることなんかないよ」
「そうしたら。。オレだって謝らないといけないし・・・。
あんなに、人がいっぱいいたんだから。しょうがないだろ?」
「こんどの土曜日。近くの神社で縁日があるから。。
それには、一緒に行こうな!」
僕は「ゆとり」をみていると、なんだか切なく思えた。
別に「ゆとり」は何もしていない。
謝らなきゃいけないことなど、一つも無い。
それに。
それに・・・。僕は笑顔の「ゆとり」を知っているから。
笑顔を見せて欲しかった。
笑顔の方が「ゆとり」には、似合うから。
「うん。今度は一緒に行こうね」
次へ。
へ へ
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