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第4章
3
ゆとりのお母さんに丁寧にお辞儀をすると、家を後にした。
ゆとりのお母さんは、ずっと僕が見えなくなるまで玄関先に居てくれたようだ。
僕は、ゆとりの家を出てから・・・。
待ち合わせの駅前までを1人歩く。
日は高く昇っている。
この町を、ゆとりはどんな風に思っていたのだろう?
空を見上げれば・・・。
真っ白な雲が流れて・・・。
眩しいほどの日差しが降り注ぐ町。
頬をすり抜けていく風は、
海からの潮風のにおいがする町。
僕は、この町が気に入りそうな気がする。
やがて、歩いているうちに待ち合わせ場所の駅前のロータリーが見える。
白い木製の看板は、はがれかけた黒ペンキで「北里町」と来訪者に告げている。
その看板の下が待ち合わせ場所だった。
すこしずつ大きくなっていく「看板」
その下には、人影がある。
その人影は、どうやらこっちに向けて手を振っているようだ。
僕は軽く右手をあげて応えて、駆け寄るようにした。
「待ったか?」
「えっ?ううん・・そんなに待ってないよ」
ゆかりは、細いラインのチェック柄のノースリーブのワンピースだ。
とっても、かわいらしい感じの服装とスタイルが似合う。
「じゃ、行こうか?」
「うん」
ゆかりと僕は、客のいないタクシー乗り場を遮るようにして歩き出した。
夏のにおい。
夕方になっても、まだまだ暑い。
空は燦々と照っている。
「暑いねぇ・・」
「あぁ。。ホント。。ココって毎年、夏はこんな暑いのか?」
「ううん。今日は特別に暑いよね。。」
「そっか。。あのさ、話変わるけど・・・」
「うん・・?」
ゆかりは、少し顔を傾ける。
「この辺って商店街は、どこにあるんだ?」
「うん・・?隣町にあるけど・・・」
淡々と告げる。
「じゃ、なんか・・・お店は?」
「駅前に「おそば屋さん」だよ・・・ね?」
「あ、それは知ってる。あとは?あとは何処にある?」
「あと?・・・。あとは無いよ・・・」
さらに、淡々と話す。
「マジで?」
「うん。あとは・・・コンビニやさんがあるよ」
「どこ?」
「ほら、あそこにあるでしょ?」
ゆかりが指差す方向の先には、一軒のコンビニエンスストアらしきものがある。
あまり見かけないお店のマークだが・・・。
この地域に根ざした「コンビニ」なのだろう・・・。
あまり大きな店構えとはいえないが、
タバコ・酒と掲げられた電飾看板が夕刻から灯っている。
「ほんとだ・・・あ。そうだ。ちょっと寄っても良いか?」
「うん。良いよ」
何故だろうか?
ゆかりと話すとき、もうずっと前から知り合いのように普通に話をする自分に気がつく。
確かに、ゆとりと容姿は似ているが。
話し方とかは違うのに・・・なぜか、気軽に話し掛けれた。
僕はコンビニで買い物を済ませると、ゆかりと横に並んで歩く。
コンビニでは、いくつかのお菓子を買った。
「ゆとり」に、お菓子でも持っていこう。と考えたからだ。
「ゆとり」は「わたあめ」が大好きな子だったし、
お菓子は嫌いなはずがない。
僕の右手には、「資源を大切に」と書かれた、
もっともらしい、いかにも安物なビニール袋をぶら下がっている。
「なぁ?ゆかりはいくつだ?」
「私は・・・16歳。高校2年生だよ。かなめ君は?」
「ゆかりと同じ。俺も高校2年生」
ゆかりは片手に缶ジュースをもって歩く。
手にもったジュースはコンビニに付き合ってもらったお礼に、
好きなもの選んでもらって、奢った。
「ねぇ?かなめ君はどこの人?この辺じゃないんでしょう?」
「あぁ。もっと南だよ・・・。長野の上川町ってところ・・」
「ふ〜ん。そうなんだ?」
ゆかりはジュースをおいしそうにのみながら、話し掛ける。
『ごくごく』とのどを通る音が聞こえてきそうなぐらいの勢いで飲む。
「まぁ。何もないところだけど。。暇があったらくればいいよ。」
「うん。。そうだね!きっと遊びにいくよ。。夏休み。ずうっと暇だから。。」
うだるような熱さの中。
この町の裏山にあたる場所まであるく。
汗がにじむようにして。。
これでもか?これでもか! と額を湿らせる。
「なぁ?暇なのは俺も暇だけど・・。
ゆかりさぁ・・こんなお墓参りにまで、つきあってもらって良いのか?」
「えっ?うん。」
この子は、いわゆる警戒心とか。。
そういった心構えがないのだろうか?
だとしたら、危なっかしい・・・とも思う。
「あのさぁ。ゆかり・・・?」
「うん?なに・・・?」
「俺が言うのも何なんだけど・・・」
「ゆかりって警戒心っていうか・・・そういうの・・ないのか?」
「えっ・・・?」
俺は、敢えて少し声色をかえて話し掛ける。
でも、ゆかりは『何ともない』とばかりにジュースに口付ける。
「俺がもしかしたら、やばいヤツだったらどうするんだ?」
「・・・かなめ君は・・やばい人なの・・・?」
「いや。。そんな事はないけどさぁ。。」
「じゃぁ。大丈夫でしょ?」
「だから、そういうことじゃなくて。。その。。何だ・・」
「うん、言いたいことはわかるよ。でも、大丈夫だよ。。」
ゆかりは、少し微笑む。
やわらげな微笑。
こっちを観ないでまっすぐと歩くほうを向いたまま、ほほえむ。
僕は、ゆかりの横顔を見ていた。
次へ。
へ へ
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