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タイトル
家出王子と偽巫女姫 作者 琴理 さん
「勇者様!何かお礼をさせて下さい!」
村は魔物が退治、否、捕らえられたと言うことと巫女姫の無事が重なった喜びで沸き返っていた。
レオネルも『魔物を倒し巫女姫を救出した勇者』と言われたが、
こんな歓迎をされても、なんとなく実感が篭らない。
「大した事はしてませんよ(後ろから殴っただけだし)」
「いやいや、あんな化け物を相手に...」
「実際にただの魔術師でしたし(足凍り付いたけど)...」
と、ずっとこんな調子なのだ。
何も要らないと言っても聞き入れてはくれない。
さて、どうしたものかと悩む内に、
村長から次の日には皆の前で巫女姫から礼を受けて欲しいと言われ、ある案が浮かんだ。
夜、割と上等の宿の一室で、部屋の天井を見ながら数日前のことを思い出してみる。
城を出てからあの場所がどうなったかなど知らない。
騒いだことだけは確かだが、今更戻れないし、戻る気も無い。
王位など兄が継げば良い物で、自分はただの飾りだ。
もし必用になれば、王子ぐらい、従兄弟だってそう呼ばれるのだから問題無いだろうと自己解決して。
深い、深い眠りに身を委ねる。
一方、リンカは誰も居ない月明かりの中、一人井戸を覗き込んでいた。
まるで、見えないほどの深みにある水が何かを映し出してでもいるかのように。
「失敗...か」
全てにケリをつけるつもりだった。
茨の檻から抜け出すいいチャンスだと思っていた。
勿論、一度目の失敗のその後にも機会はあったが、
そこで逃げ出せば『巫女姫』としても、人としても、自分のことを心配してくれた人間に対しても、失礼だと思うから、
もう一生無いだろう機会を捨てた。
つきはじめてしまった嘘。
皆の考え、思い。
過去の記憶、押さえつける感情。
全て、刺の着いた鞭のように自分を縛り上げる。
明日は、ありったけの勇気を絞り出して村人達の前に立とうと思う。
できる限りの微笑みを浮かべて花束を渡して感謝の言葉を述べようと思う。
自分は、『生け贄』。
村人達の歓声の中、ある広場の真ん中でレオネルは複雑な心境だった。
色々と考えを巡らせる内、リンカが人込みの中から歩み出て花束を差し出す。
化粧を施されて綺麗に整った顔に人形的な笑みを浮かべている。
「これを...村の者たちからの感謝の気持ちです。他に何か欲しいものがあれば何なりと申して下さい、できる限りの事は致します」
思い切り棒読みだが、この言葉を待っていたと言っても過言ではない。
「なら、頼みたいことがあるんだが」
その言葉をよく聞こうと、広場は静まり返る。
そして、次の言葉を口にした時、更に大きなざわめきが起こった。
「旅に同行願いたい。勿論あんただ、巫女姫」
目を丸くして信じられないとでも言いたげだが、そんなことは構わない。
「さっさと行くぞ!」
驚いたまま固まった者、叫ぶ者、追ってくる者、様々な反応をする人間が居た。
それを全てリンカを引っ張りながらすり抜けていき、
村の外れ――――多分誰も来ないだろう所まで逃げ切ると、化粧を施した顔に布袋を投げつける。
「それ、着ろよ。ついでに化粧も落とせ、気色悪いから」
「お前...!何時から...」
袋の中身は男物の衣類。
「さあ、昨日あの大男をひっくり返してお前を見上げた時かな。汗で服が張り付いて、胸見事にまっ平らだったし」
急いで着替えをして着ていた服を破り、顔を拭く。
「ま、なんで男が巫女姫かは知らないけどな。とりあえず、本当の名前を教えてくれ」
「イアル。私は...双子の姉の代わりだったのだ。そして、そのことを誰も知らない」
ぽつりぽつりと、雨の雫のように零れてくる言葉には耳には聞こえない叫びが混じっているようにも思えた。
「二人で遊んでいた時に...彼女は井戸に落ちてしまったのだ。そして、彼女は誰より優秀な巫女姫候補だった...」
おいかけっこをしていて肩を軽く叩いた弾みでバランスを崩し、地下水脈と直結した井戸に落ちた姉として十年間生きてきた。
素直に言えなかったためにずっと言えなかった。助けを求めることは出来なかった。
「生け贄に自分が指名されたと聞いて安心したのだ...死のうと思ったわけでは無い...昨日は、一人で魔物を退治し、食われたと言うことにして村を出るつもりだったのだ」
何も言わなければずっと続きそうな嫌な沈黙を打ち破るように、笑顔を作って声を上げる。
「ま、これからお互いに自由ってことで、宜しくな!」
「ああ。宜しく...」
「実は俺、ヴェルダイムの家出王子」
悪戯をしたばかりの子供のように舌の先を軽く噛んで見せる。
「ごてごて着飾って飛べない孔雀はいやだから...っと、どの方向に進む?」
醜くても、自由に空を飛べる無力な雀がいい
だから、歩き出す
自由な一歩を確かめるように
何処までも広がる空の色を楽しみながら
何にも囚われない、咎められない会話を楽しみながら
歩いて転んで立ち上がり歩き出す
『保護』と言う名の足かせ壊し
危険に囲まれること承知で選んだ
『自由』を楽しみながら
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