|
|
|
第4章
1
僕は、いつの間にか、うとうととしたまま眠ってしまったようだ。
僕の睡眠の方法はいつもなんだかこんな感じだ。
きまった時刻に眠ることよりも、
「眠たくなった」その時間に眠る。
とはいっても、生活に支障は無い。
いつだって眠たくなるのは「夜」なのだから・・・
目が覚めて、手元の目覚まし時計を見ると、午前3時を過ぎたころだった。
僕は、自室のPCを何気なくスイッチを灯す。
立ち上がると同時に、
「ブ〜ン」という、うなるような音がこもる。
眩しいほどのディスプレーが僕の目をつつくようだ。
部屋一帯を明るく染める。
いつもながら、立ち上げると「OSのあのマーク」が浮かぶ。
「さてっ。と・・・」
僕は瞬時に立ち上がったPCに面とあわせて、
メールチェックを入れる。
と、もう片手で卓上のランプを灯す。
「ピィコン」
いかにも電子音が跳ね返るようなサウンドで、新着メールをあらわす。
いくつかのダイレクトメール(広告)にまぎれて、
「来斗(ライト)」からのメールがある。
ロボット(アンドロイド)ではあるけれど、同居人なのだから、
直接、話に来てもいいのだけれど・・・。
きっと、僕が寝てしまっていたり、外出していたから。
メールで伝達するという手段を用いたのだろう・・・。
「将紀さんへ」
「昨日、お受けしたプログラミング。確認しました。」
「来夢(ライム)と一緒にスクリプトのチェックを行いましたが、」
「問題点は見つかりませんでした。」
「今度は、このプログラミングを僕たちに格納することになります。」
「将紀さんにスケジュールはお任せしますので、」
「日程・過程が決まり次第、教えてください。 来斗」
僕はメールを一目通すと、メールを閉じた。
やはり、今回のプログラミングには「ミスタイプ」も無く。
プログラミングのバグチェックも壁を乗り越えられた。
正直、前回までの「確認作業」とは、「異なる考え」で臨んでいたから、
当たり前の結果とも思えた。
それでも、「最終確認」を超えたことに一種の達成感。
いや、安堵感との方が確かな感情として、
こころのどこかに沸きあがってはいた。
早速、昨日の確認作業における「ねぎらい」と「感謝」の言葉をのせたメール。
それをキーボードを「カタカタ」と言わせて叩くと、
返信(リプライ)のアイコンをクリックした。
2
リプライを来斗に送付終えると、PCの電源も落とす。
そうして、僕はベッドにもたれるようにして腰をかけ、
ふと、このプロジェクトの先を思いうかべることにした。
「・・・・」
明かりはさっき灯した卓上のランプのみ。
すこしだけ、窓から差し込む外光。
部屋は静寂なときを生む。
僕の呼吸だけ。
僕の呼吸だけが「音」として感じられるような空間。
静かな時間。
まるで、その空間が僕に問いただすように・・・。
このプロジェクトの価値や意味を再考せよ。と迫っているような気がする。
「・・・このプロジェクトに価値とか・・・あるのだろうか・・・?」
正直言って、今の僕にはこのプロジェクト。
来斗・来夢の2体のアンドロイドをより「人間らしくする」というプロジェクト。
これに、どんな意味があるのか?わからなかった。
このプロジェクトは今までのアンドロイドと大きく異なるものを目指した。
その一番の特徴とでも言おうか?
それは「彼ら、アンドロイドに意識を生み出そう」ということだった。
今までのアンドロイドは、人間の意図した方法で使われることを主なる目的にされた。
例えば、危険な高所での作業を彼らに行わせる為であったり・・・。
それが、いわゆるロボットの役目であって、使命であった。
けれど、父が残したこのプログラムは。。
あえて、ロボット (アンドロイド) に「自分たちの考えや意識」を持たせることを考えた。
昔のロボット (アンドロイド) たちは、
人がプログラムされたことを、ただそのまま行うだけだった。
それが、21世紀に入った頃。
ロボットにも「意識」といったものがあるのか?
みな、学者や研究者たちはこぞって、そのことを考え始めた。
そうして、ある研究者は「人の真似をするプログラミング」を作った。
視覚(カメラ)で見た「人の作業する場面」を見て、
ロボット自身がその「作業」の真似を行う。
そういったプログラミングの開発にこぎつけたのだった。
ここから、ロボット (アンドロイド) への研究は加速していった。
多くの利潤をもとめた民間会社。
国益を求め、世界の各国の研究機関。
様々な研究者が開発を進めていった。
けれど、今までのロボット (アンドロイド) は、「人の真似」の範疇内であって、
そこから逸脱したり、そこから大きく発達したこともなかった。
「人の真似」をすることは・・・。
人間に近づいたことにはなるが・・・。
そこには「意識」が介在したか?どうか?というと・・・。
それは無かった。
ほとんどの部分で「意識」はない。
ごく一部、ごく稀に。
ロボットがはじめてであった「作業・仕種」にとまどった時。
彼らに「タイムラグ」が起こる事。
これを「躊躇する」という意識が働いた。と、
考えられたりもしたが・・・。
それは、本当に「意識的なもの」と言えるか?どうかわからないだろう。
そうして、父はもっと根本的なこと。
「意識」というもの。
いわば、人間で言うところの「脳」の開発に向かう。
「外的な人の真似では、意識は生まれない」と考えた父は、
簡単なプログラミングから始めた。
たとえば、足の小指の部分がどこかの角に当たったとき。
人間は「痛い」と瞬時に判断する。
これは皮膚が「触れて」衝撃を受けたからだ。
と。いうことは。。。
何故、人間は「足の小指を角にぶつけた時」に。
「痛い」となるのだろうか?
父はどう考えたか?それは聞いていないから知らないが・・・。
僕はこう考える。
「痛い」ということを身体に感じること。
それは、「強い衝撃が足にあった」という信号が脳に伝わり、
それが意識に変換されて、「痛い」という「意識」になったのではないか。
ならば、何故「人は痛いという感覚を備えているのか?」ということを考える。
すると・・・。
「痛い」と感じること。これは人にとって辛かったり、嫌なこと。
ならば、繰り返すまいと考える。
これで、「足の小指を角にぶつけたくない」という感情が生まれる。
そうして、「足の小指を角にぶつけないようにすること」で、
「足の弱い部分を守ろう!」という意識なのではないか?
僕ら人間には無意識に備わっているけれど。。。
本来は、「身体の弱い部分を守ろうとする」ことを、
こうやって「痛み」というもので、自分に言い聞かしている。
そうはいえないだろうか?と僕は考えた。
生きているものとそうでないもの。
決定的に違うのは、「迫り来る死」があるのか無いのか?
そして、その生命の重み。
僕はそう思った。
きっと、父も同じような考えだったのだろう。。
こうして、父はプログラミングを続けていった。
プログラムは順調に進んでいったようだ。
今、思えば、その日々の父は輝いて見えた。
少年のような眼差し。というよりも。。
グラスに注いだ太陽のあかりに反射された七色のカクテルのように。。
輝いて見えた。
僕には、その「アンドロイドに考えや意識を持たせること」に、
どのような価値や論点・・・。
その他諸々の「意味」があるのか・・・?
今でも、そんなことは、わからない。
考えなかったわけではなく。
僕には答えが出なかった。
それでも、このプロジェクトを進めようと考えた一番の理由は・・・。
やはり、父の形見。として・・・。
僕が引き継ごうと・・・。その遺志を継ごう。
そう考えていた部分が大きい。
でも、このプロジェクトには必ず「答え」があるんだ。と確信している。
今は、その「意味」などわからないけれど・・・。
このプロジェクトが進んでいくことで。
いつしか、その「意味」もわかるだろう・・・。
そして、その「意味」がわかったとき、
このプロジェクトは終わりを迎えるのだろう・・・。
役目を果たすのだろう・・・。
そう、思う。
僕は、ふと。目を閉じる。
眠りが僕を誘う。
なんだか、父の面影が呼びかけるように・・・。
僕は目を閉じた。
次へ(第5章へ)
へ へ
Copyright © since
2003 読み物.net & 砂糖計画 All rights reserved.
Produced by 読み物.net & 砂糖計画 since 1999
Directed by 『Sugar pot』 &
はっかパイプ & 砂糖計画 since 1999
mail for us mailto:menseki@yomimono.net
|
|
|
|
|
|
|
|