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第5章
4
工学の授業が終わると、僕らは下校の準備にかかる。
今日はこの後、亜季と約束をして「ゆりこのお見舞い」に行くことにしていた。
亜季は、放課後。校長室にお呼びがかかっているとのことだった。
どうやら、この前のコンクール優勝のことが関係しているようだったが、
あまり、詳しく聞かなかった。
人のことには、あまり首を突っ込むタイプの人間ではないから・・・。だ。
そのため、放課後。すぐに見舞いへ直行とはいかない。
なので、暇が出来る。
したがって、僕は階段を駆け上がって、屋上に出ることにした。
屋上への扉をあけると、風が吹き抜けた。
この校舎から眺める街並みがとても好きだった。
だれもいない屋上。
僕はコンクリートの上に寝転ぶ。
組んだ腕を枕代わりにして、寝転ぶ。
冷えたコンクリートの感触。
無機質な肌触り。
みあげた空に輝く太陽。
ふりそそぐ光線は、つよくもない。
眠るにはすこし太陽がまぶしすぎるが・・・。
とても、心地よい。
瞳(め)を閉じていると、下校の放送が始まる。
グランドに向けられた屋上に備え付けのスピーカーが音波を作る。
「用の無い生徒は帰りましょう・・・」
この聞きなれた声の主は、すぐにわかる。
先ほどの「池谷めい子」だ。
本人も認めているくらいの「どじ」な女の子だが・・・。
なぜか?この放送部のときだけは「しっかり」と役目を務めている。
ふつうは逆だと思うのは、僕だけだろうか?
放送とか、みんなの前だと「あせったり・とちったり」するのが、
どっちか?といえば、普通だろう・・・。
おもわず、ねころびながら微笑んでしまう。
すると・・・。ふと、
「なにしてるんですか・・・?」
すぐとなりから女の子の声がする。
「ぅうん?」
僕は目を開ける。
眩しい日のひかりの向こうに、人影がぼやける。
ひとしきり、目をパチパチさせて焦点を合わせると・・・。
そこには、一之瀬絵美がいた。
「あ。あぁ・・・絵美か?絵美こそ、どうした?こんなとこへ・・・?」
「私は、屋上の倉庫に本を取りに来たの・・・」
「本?何。図書室のか・・・?」
絵美は、図書委員だ。
彼女は図書委員が「板につく」
小学生のころからすでに図書委員をやっていたような記憶がある。
僕も一度だけ、小学校の時。図書委員になったことがあった。
別に図書委員になりたくってしょうがないって訳ではなかったのだが・・・。
なぜだろうか?図書委員をやった。
そのとき、もうひとりの図書委員だったのも、彼女だった。
「うん。そうなの・・・昔の本と入れ替えるから・・・」
「ふ〜ん」
「それで・・・星野君は何してるの・・・?」
「俺?オレは・・・別になんてことないさ・・・暇つぶし・・・かな?
ちょっとの間、暇だから屋上なら静かに寝ていられるかなぁ・・・ってさ」
「あぁ。そういや、俺。借りたい本があるんだった・・・。
ちょうどいいや。絵美も下に降りるだろう・・・?手伝ってやるよ!」
「うん。ありがとう・・・」
僕たちは、屋上の物置から「昔の本」を取りだした。
「昔の本」というよりも、昔の地図だ。
どうやら、近いうち、どっかのクラスで、地理の授業でつかうためのようだ。
絵美の細い両腕には、かさばっていない資料集が6冊。
僕の両手には、地図帳が5冊。
5冊でもずっしりとした地図帳のほうが、さすがに重い。
「いっつも。こんな重たいの運んでいるのか・・・?」
「・・・うん。頻繁にではないけれど・・・」
「よく持てるなぁ?」
「・・・ううん。1回じゃもてないの・・・。だから。3回往復することもあるの・・・」
「そっか。。大変だなぁ・・・」
「うん。ありがとう・・・。手伝ってもらって・・・」
5
多くは下校したのであろう、
廊下は少しひんやりとした静けさで満たされていた。
人の声がしない廊下をゆっくりとあるく。
上履きの音が2人分だけ響く。
真上に燦々と輝く太陽が光を届けている。
「あのねぇ。星野君・・・」
「うぅん?」
「私、北海道にいたでしょう・・・?」
「あ。あぁ・・・。そうだったな・・・。」
「北海道って冬休みが長いから・・・夏休みって少ないの・・・」
「ふ〜ん。そうなのか・・・」
絵美は、窓に差し込む陽のひかりを見やる。
そのひかりは、窓を通して2人の足元に差し込む。
「私は泳ぐことが好きだから・・・。夏休みってすごく楽しみにしてた・・・。
海に行ったり・・・。プールに行ったり・・・。」
「・・・」
「だから、最初は残念だったの・・・。
北海道の夏は短くて・・・。泳ぎに行ける期間はすぐ終わるから・・・。
だけど、冬休みになったらね。『冬休みが長いって良いこと』って・・・思うようになったの・・・」
「・・・」
絵美は、重たい本を持ち直すようにする。
「のぞみが急に来てくれたの・・・。冬休みに・・・
メールで連絡はしていたんだけど・・・
中学校になって、向こうに行ってからは一度も会えなかったのに・・・」
「よく、行けたなぁ・・・。アイツ、確か方向音痴だろ・・・?」
「うん。そう・・・。私も驚いたの・・・。
ドア開けたら、のぞみがいたんだから・・・。
『迷いながら来たんだよ』って。。すごく、嬉しかった・・・。私・・・」
「北海道の中学校は、すごく小さい学校でね・・・。
全校生徒で、10人しかいない学校・・・。
女の子は私一人だったから・・家に一人でいたの・・・」
「それで。何で、先に言ってくれなかったの?
言ってくれれば、駅まで迎えに行ったのに・・・って言ったらね。。
『それじゃ、楽しくないでしょ?』って・・・」
「とっても、嬉しかった・・・。
私にわざわざ・・・。って・・・。
今でも、会いにきてくれたこと。すごく感謝しているよ・・・」
「そうか・・・」
重たそうに本を持ったまま、絵美は微笑む。
すらりとした身長の印象のように、
その微笑にも、すっきりとした爽やかな印象を受ける。
すっと、駆け抜ける風のように・・・。
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