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第1章
13
仔馬家へ向かう僕ら。
ユカリが先陣を切るようにツカツカ歩くのを後でついていく2人。
取り仕切っている?というか、本当。隊長さんのようである。
「仔馬家ってたしか・・・。おばあさんが一人でやってる店だよなぁ・・?」
「そうですよ・・・仔馬家さんにはよく行くんですか?」
「う〜ん。まぁ、たまにこうして行くぐらいだけど・・・」
あやなはおっとりとした口調でゆっくりとした歩調で進む。
「あそこのおばあちゃんは、
あやなぁん家のお母(ば)さんがこの商店街の会長になる前の会長だったんだよぉ」
ユカリは少し前を歩いてはいるが、僕らの会話を聞いていたようだ。
「へぇ〜。
あっ!そういえば・・・2人に聞きたいことがあったんだ!」
ユカリはそのまま前を向いたまま「何?」とこたえ、あやなはのんびりとこっちを振り向く。
「いやぁ。別にどうってことないんだけどさぁ。なんでこの商店街アーケードの屋根をとったんだ?」
「あっ。あれはあやなのおばさん(お母さん)。
つまり、商店街の会長が はずす って決めたんだ。なぁ。あやな?」
「そう・・なんです・・・。母が汚れたからはずしたほうが良いって・・・見た目が悪いからって・・・
でも、最近は商店街のみんなが『雨の日は大変』って・・・
八百武(やおやのやおたけ)さんなんか、
『店の前の野菜(もん)が急な雨でだいなしになるよ』って、お話してくれたんですけど・・・
だから、来年くらいには新しい屋根がつくかもしれませんよ・・・」
「ふ〜ん。あ。あと。この商店街の入り口のところにあるアドバルーンのキャラクターがあるけど。
あれは誰が書いたの?」
「あっ!そう。それはあたしも聞きたかった・・・あやなのおばさん(お母さん)?
あの「ダイチャン」は・・・ほんと。誰が書いたの?」
ユカリの方が僕よりも乗り気のようだった。
きっと、ユカリも僕と同じように「あのキャラ」がおかしく見えるのだろう・・・。
顔だけこっちに振り向けて前をあるく。
「あの「ダイチャン」は有名な方に頼んだんですよ・・・。プロの人に・・・。
父の昔からの友人という方で・・・」
「えぇ〜!」
ユカリには大きな驚きのようだ。
思わず、立ち止まってまで、振り返り、あやなを見ている。
確かにプロにしては「子供受けが悪すぎる」気はする。
あの鋭すぎる目つきは「ハンター」の目つきだ。
恐すぎる。商店街のイメージに合うとは思えない。そんな代物だ・・。
それをプロが描いたとは。。。
「だって、アレ。どう見ても恐いよ・・・」
「そうぉ?かなぁ・・・」
あやなはユカリにそう言うと、
すぐさま「そう。思われますかぁ?」と、僕に聞く。
「う〜ん。まぁ。確かに目つきが恐い気はするけど・・・。
でも、プロなんだから、それなりの意図があるんだろうなぁ・・・」
「意図?そんなのあるのかなぁ?子供なんてアレみて泣く子もいるのに?」
ユカリはしきりに首をかしげる。
あやなは微笑むようにそれを見ている。
2人は本当にいいコンビだと思う。
お互いもそう思っているようだ。いっつも一緒にいるところを見ると・・・。
そうこうしているうちに「仔馬家」の前に着いていた。
「仔馬家」はこの商店街の中ほどにある、いわゆる純粋な甘味やさんだ。
商店街の入り口から歩いて5分もかからない。
入り口の看板に「子馬の親子」が描かれている店だ。
あんみつ・みつ豆などの和菓子を中心にした構成メニュー。
この時期だとそろそろ「かき氷」もだすかもしれないし、冬になれば「おでん」も出る。
そして、「おしるこ」は真夏でもあるようだ。
「おしるこ」は季節物ではないということなのだろうか?
パフェ類もあるが、「日本風な出で立ち」の店構えに好感が持てる。
入り口の引き戸を引くと「いらっしゃいませ〜」と、出迎えの声がおくから聞こえる。
おくが調理場(キッチン)になっている。
このお店の店主であるおばあさん一人で切り盛りしているお店だ。
座敷(こあがり)の作りと、テーブル席があったが、
ユカリはテーブル席に腰掛けたので習った。
ユカリが「クリームあんみつ!」
あやなが「チョコレートパフェを下さい」
僕が「アイスコーヒー」を注文を頼むと、
わらった顔がいつでも現れているような印象のおばあさんはそのまま厨房(調理場)へ入っていく。
特に「ユカリ・あやな」の2人は知った顔だからだろうか?
僕がいつも見ているとき以上に笑いジワが多く思えた。
しかし、このおばあさんはいつ来ても、
ひとりでテーブル拭いて、注文を取って、料理(調理)して、お勘定して・・・。
一人何役もこなす・・・。
毎回来るたびに思うことだが、正直にすごいと思う。
「あやなはホント、パフェが好きだなぁ・・・?この前はバナナ・その前がイチゴ・・・」
ユカリは、あやなの手元に届いたチョコパフェに目をやりながらつぶやく。
「そうですねぇ・・・。わたし、パフェ好きなんですよ」
あやなはユカリの顔を見て、それからゆっくりと僕の方へ振り向く。
そして、やおら。口に真っ白いクリームをはこぶ。
おっとりとした仕種でにこりとする。
「ほんと、幸せそうだね〜あやなは・・・」
ユカリの言葉に、幸せとは、こういう些細なことなのかもしれない。と僕も一瞬思う。
「そうねぇ。パフェおいしいから・・・」
「あっ。そうそう。今度さぁ。亜季のコンクール。星野君も行くでしょ?」
ユカリはあんみつをすくいながら、話し掛ける。
「・・・。あっぁ・・・」
「いいよね〜亜季。お母さんも凄いピアニストだし・・・。きっと有名人になっちゃうんだろうなぁ」
「そうか?有名人になったらなったで大変かもよ?
こうしてお茶飲むときにもみんなにサインねだられたりして・・・」
「うん。・・・でも。いいじゃない〜」
「ふ〜ん。そういうもんかねぇ・・・」
「わたしんち、なんか。コンビニだよ・・・」
「いいじゃないか。オレは良く行くよ。ユカリんとこのコンビニ。
いっつもユカリのおかあさんに『ユカリと仲良くしてあげてね・・・』って言われるぜ」
「・・・。わたし、一人っ子だから・・・。
いつか私もあの店を守る(継ぐ)ことになるかも知れないんだよね。」
ユカリは口に運んだあとのスプーンを目の前に突き出す。
「そしたら、毎日、遊びに行くよ!あやなも行くよな?」
あやなはパフェを食べながら大きく頷く。
「あやなの家は『包丁やさん』だから・・・お兄さんがつぐんだよね?」
「そうねぇ・・・。兄が継ぎますねぇ。父にいつもついて習っていますから・・・」
「へぇ〜」
あやなの家は、今時分、珍しい「包丁やさん」だ。
なんと、それも自家製。自分の家で刀鍛冶をやってるのである。
工場(こうば)?というのだろうか。
店とは別の場所だが、家の近所にある工場でトンカンやっているようだ。
たまにその前で、汗だくのあやなのお父さんに出会うことがある。
ただ、その刀を叩く音は外には聞こえないし、叩いている風景も覗けない。
きっと、そうとうな防音施設になっているのだろう・・・。
「じゃぁ。あやなはどうするのよ?」
「・・・。私はお店で包丁を売りますよ。
私、この街が好きだから・・・。大通り商店街が好きだから・・・」
「そう。そうよね?あやながいなくなったら、つまんないもんネ。私もその方がいいと思うよ」
僕は黙ってユカリとあやなの顔を見た。
そして、あやなの目の前には「からっぽの器」とスプーンがあった。
そうこうして、ずいぶんの間、ユカリとあやなと駄弁って帰った。
第1章終わり 第2章に続く
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