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Sugarpot 書き下ろし
タイトル 「無題」


第2章 2回目はスクランブル


亜季の誕生日が近づいていた。
亜季の誕生日は10月22日だ。
その名の通り、秋に生まれたから亜季と名づけられたそうだ。
 
「ねっ。もうすぐ私の誕生日・・・。わかってる?」

付き合い始めて5ヶ月以上たっていた。
「はじめて、二人で祝うんだね・・・」
亜季は少しほほえみをつくってこっちを見つめる。

「どっか、連れてってくれるよね・・・?遊園地?それとも、映画?う〜ん・・・あとは何があるかな?・・・」

「おまえなぁ・・・」
「なぁに?」

駅へと続く並木道をすりぬけた何本かの日差しが秋を感じさせる。
中間テストを終えたばかりの高校生2人の日曜日。
明日から次々と返ってくるテストの結果が、良いか?悪いか?気にはなるが、
終わった。という気持ちでこころがかるい気がする。


「まぁ。いいや・・・」
「う〜ん。迷うなぁ〜。どこにしようかなぁ?」
きんもくせいの香りとやきいも〜の声。
秋は深まって、もうすぐ葉も色づく。

「な、それより。今日はどこ行くんだ?」

「えっ。渋谷に行くって言わなかった?」
「・・・そうだったっけ?そうか・・・何しにいくんだ?」
「ほら、わたしのかばん。こわれちゃったから・・・」
亜季はバッグを持つまねをした。
「ああ。そっか、学校に持ってくヤツな」

そういえば、この前こわれたからつきあって・・・って言っていたのを思い出した。
なにやら、取っ手の部分が壊れたらしかった。
俺何かだったら、気にせず使いつづけるぐらいに見えたけれど、そうもいかないらしい。
うちの学校は私立のせいもあってか?基本的に規則は厳しい。
だが、制服は決められていたが、かばんは原則として自由だった。

「でも。何も渋谷まで行かなくとも・・・」

「うん?そう?でも、買い物終わったらいっしょに遊ぶにはいいかなぁ・・・と思って」
「・・・・・・」

なんだか、いろいろと主導権を取られている気がしたが、
まぁケンカしてもしょうがないのと、別に渋谷に付き合ってやってもいいか・・・と、黙ってみることにした。
 (いつもそんなカンジだけど・・・)


「さっ。ついたぞ」
渋谷の街はいつ来てもごみごみしていてどっちかというと、渋谷は好きではない。
おさない感じがどこかで漂っているからかも知れない。まだ、新宿の方がよく思えた。

俺は亜季といっしょに井の頭線を降りると、JR改札の方へ向かって歩き出した。
JR線へとつながる空中廊下(ほんとは何ていうのか知らないが・・・)から渋谷の街を見下ろした。

「すごい人だね・・・」
窓ガラスからのぞけた駅前交差点は、まさに人の海だった。
何処からこんなに人が出てくるんだろうか?
僕らみたいな人がいろんな所からやってきてこうなるのだろうか?

  ハチコウ前には待ち合わせのひと。
  大きなビジョンをみているのは交差点待ちのひと。
ここからこの風景をながめれば、胸に何かを感じる人が多いだろうと思う。

「気をつけて歩かないとな・・・はぐれないように」

「そうだね・・・」
亜季は正直言って、方向音痴だ。
だからこんなところではぐれたら大変だ。と思った。

「もしも、はぐれたら・・・ま、ハチコウ前にしておこう」

「うん。でも・・・ハチコウ前に着けるかな・・・?」
亜季も方向音痴を自認しているから、心配らしい。
「そうだな・・・ま。大丈夫だよ。はぐれなきゃいいんだから。一応な。保険みたいなもんさ。」
「・・・うん。」


渋谷の駅前交差点は、いつでもこんな感じだ。
雨でも降らない限り信号待ちの人だかりになる。
今日などは日曜のまっぴるま。それもこの天気ときては・・・

  車が人がところ狭しとせわしなく往来する。
  混み合うクラクションとざわめく人声。

『人が集えば集うほど何となく人間がちっぽけにみえるのは何故だろう?』
俺はぼんやり大きなヴィジョンに目をやりながら、ふと考える。
『きっと、忙しなくて・・・。けなげで・・・。でも、そこがまたいとおしいのかも知れない・・・』
出来たばかりの駅ビルはガラスの塔。
まるで、吸い込まれるようにラヴィリンスに人が入っていく。

「しかしすごい人だな。何度も言うけど・・・」
交差点は信号待ち。
四方八方でそれぞれみんなが違う方向を目指す。
「うん・・・そ、だね。・・・」
どうやら亜季もぼんやりしていたらしかった。

「あぁ。それで、何処へ買いに行くんだ?カバン?」
「ハンズに行こうかなって・・・思うんだけど。」
そう言うと、続けて、なにやら気がかりらしく、

「ねっ。あのひとこっちをずっと見てるみたいなんだけど・・・」
と亜季は真正面の方をみつめて俺にうながした。
「うっ?ん?」

正面を見るとそこには、亜季の言う通り女の人が一人、どうやらこっちを見ているようだった。

「いつから・・・?」
「ここについてから、ずっと・・・」
「ふ〜ん・・・」

年齢は俺たちと変わらないぐらい。
肩先より少し伸びた髪。
秋らしく、ピンク色というより薄い桜色のカーディガンを羽織って、スカートもそれにならっていた。

「ね。知ってる人?」

「いや。知らない」
「・・・ふ〜ん。でも何でこっち見てるんだろう?」

かおは可愛らしくみえた。
何ていうんだろうか?
クラスでも別に目立った事はしないけど、ひそかに想われてるタイプ。そんな感じの娘だった。
控えめな感じなのに、ジッと見つめるまなざしは何処か強かった。
きっと、ここがこの娘を印象づけるのだろう。

「あっ。青に変わったよ。」

亜季に言われると同時に、その女の娘も歩き出したのをみて俺も歩を進めた。
それでも、その娘はこっちを見ている。
亜季などは、すこし俺を伺いながらおかしげに感じていたようだった。

俺は、何となくその娘のかおにひかれた。
惹かれるといっても『かわいいから』というそうな類の思いではない何かがそうさせた。


すこしずつ、お互いが歩くことで近づいていく。
でも、お互い目を離さない。
あっという間にお互いがすれ違う距離になる。

俺は亜季の右側を寄り添って歩く。
亜季は俺のかおをなにげなく見ている。
その娘は俺の歩く側へ少し方向をずらした。

俺の右肩とその娘の右肩がもうすぐ、すれ違う。・・・。

何か、不思議な風が吹いた気がした。


「ひさしぶり」
ほとんど、聴こえなかった。

でも雑踏の中、俺にしか聴こえない声で確かにそういった。
俺は、ハッとした。
一瞬、あたまの中が空白になる。

「ねっ。ずっとこっち見てたでしょ・・・?」

亜季にはやはり聴こえなかったらしい。
少し作り笑顔を浮かべながら、過ぎ去ったのを知って噂話をする。

俺は振り返りその娘を目で追ったが、もう人ごみにもまれながら消えていくだけだった。

「知らない人なんでしょう?」

「えっ。・・・あ。あぁ・・・」
俺は、ほんとに知らない人だった。
そう、俺は。俺の方は知らなかった。

あの娘は俺を知っている?ようだ・・・そう。知っているようだった。

でも、一度もあったことなどない。と、思う。
記憶の中にあの娘に関することは何一つ浮かばない。
だけど、あの娘は確かに「ひさしぶり」といった。

「こんにちは」ならまだしも・・・「ひさしぶり」ということは以前に何かあったということになる。
何処で会ったことがあるのだろう?

「もっ。はやく。そんなゆっくりしてたら、遊ぶ時間みじかくなっちゃうよ?」

亜季にせかされて、変わりかける交差点をわたる。

「あ。あぁそうだな」
俺はとかく気になったが、考えてもわからないことを考えているうちに段々疲れることがままあるように、
すこし考えるのを後にした。
それは、亜季の手前と言うこともやはりあった。

が、それにしても・・・『かおに覚えがなければ、声も聴いた覚えがないんだよな』
やはり、結局、あたまのかたすみであの娘のことが巡りつづけていた。

第2章 終わり

第3章へいく。(第3章も読む)


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