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Sugarpot 書き下ろし
パズルのかけら

第3章



あれから、1週間が経った。

この一週間。
僕は何事もないように、サラリーマンを気取って、
いつものように満員電車に揺られて、
与えられた分の一日の仕事をこなして、
帰宅前には、会社のみんなと「いっぱい」飲んで・・・。
疲れた身体で、ベッドによろめくようにして、
くったりと眠った。

あっという間に、1週間後というものは、やってくる。

仕事していても、電車に乗っていても。
心のどこかでは「依頼」のことが気になっている。
けれど、それ以上のことはない。

どうせ、答えは一週間後となる日。
つまりは、今日には「ある答え」にたどり着くことがわかっているから。


今日は、目がさめるのが早かった。
約束の午後1時まで、ずいぶん時間がある。

それは、
遠足前の小学生のような「ワクワク」ではない。
どちらかといえば「テスト」前の「そわそわ」に近い。
落ち着かないのは、ウキウキではなくて・・・。
ドキドキに近い感情だろう。

僕は、目覚めて、
昨日、コンビニで買った「缶コーヒー」を飲むと、
姿見で髪型を整え、
一番のお気に入りの格好に着替えると、家を後にした。

天気は先週と同じように晴れている。
けれど、少し雲がところどころにある。
グレーの空でないだけ、気分は良かった。

電車で揺られて、20分ほど。
東急東横線は、渋谷に向かう若いカップル。
週末お休みの学生たちが多く乗り込む。

進行方向に向かって最後方の車両は、
座る場所がところどころ、空いているが、
僕は扉に寄りかかっていた。


流れる景色。
電車から覗ける景色は、毎日ほとんどおんなじ。
見飽きるほどに変わらない。

なのに・・・。
毎日が流れていく。
忙しいと、あくせくしながら・・・。
日々、どんどん流れていく。

今、この瞬間も「瞬間」を刻んだとき。
もう、過去になっていく。
そうやって、
時計の針が進んでいく・・・

そう、気がつけば・・・。
車窓からみえるこの街も、少しずつ変わった。
今はトンネルのこの車窓も。
丘の上を走っていて、テニスコートが覗けたのに。
今は、真っ暗な闇が目の前を覆う。

当たり前のように、ずっと存ると思っていたものも、
知らず知らずに、誰にも気づかれないように・・・
ひっそりと姿をくらまし、
いつのまにか、違う誰かに姿を変える。

そして、それがいつか。また「当たり前」になる。
そう、それが「いつもどおり」になっていく。

僕は、最後方のドアにもたれて、
何気なく景色を眺めている。
それは、今。
現在の僕が見ている。今という瞬間だ。




僕は、先週と同じ場所に待ち合わせた彼女。
沙雪をハチ公前で探す。
待ち合わせの時間よりもずいぶんと早く着いてしまったのに、
もう、沙雪はそこにいた。

「待った・・・?」
「いえ、今ちょっと前に・・・」
「まだ。20分も前だよ・・・」
「待たせるのが、嫌い・・・だから・・・」

沙雪は、ここのところ、めっきり春めいたからか。
いかにも、春らしい格好だった。
淡い水色の薄いカーディガンを肩からかけて、
白いカットソーに、真っ白なタイトスカート。
足元のミュールもあわせて白い。

さわやかな色合いが、とても目を引いた。
品のある色合いが、彼女らしさを演出するのに一役買っている。

「じゃぁ・・・。この前の喫茶店に行けば良いのかな・・・?」
「・・・はい。」

渋谷の道玄坂を2人並んで歩く。
はたから見たら、カップルに見られるような気がする。
お似合いか?どうか?は別として・・・。

この道玄坂は、
まるでコレでもか!と言っているように、ビルが続いていく。
このビルという無機質な建物が、ますます坂をキツく思わせているようだ。

僕は、沙雪に何か話し掛けようか?と思うのだが、
なかなか、これといった話題も無く・・・。
何を話せば良いのか?わからない。

僕らは。横に並んで坂をあがっていく。
ただ、あの「Feel」という名の喫茶店に歩みを進める。

次へ。

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