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第3章
3
「Feel」は、一週間前と同じように、
そう、まるでReplayのように・・・。
僕らを迎え入れる。
そして、この前と同じ席に腰をかけた。
「Feel」には、ジャズが良くかかる。
ジャズが似合う店かどうかは分からないが、
店主の好みだろうか?
この前に来た時とは異なる「ジャジーなサウンド」が
天井から吊り下げられたツインスピーカーから、
しんなりと流れている。
沙雪は「紅茶」の「レアチーズ」セット。
僕は「アメリカン」を頼んだ。
目の前に運ばれた「アールグレイ」がやさしく湯気立つ。
「・・・で。早速だけど・・・」
僕は、はやる気持ちを抑えられなかったわけではない。
沙雪との話題が無い僕は、
この空気感というか、この沈黙が耐え切れなかった。
なんとか、沙雪と話を交わさないと、
なんだか、落ち着かなかった。
それが、こんな言葉になった。
それだけだった。
「・・・」
沙雪は、紅茶に口付け、
そうしてから、おもむろに、僕の目を見る。
「・・・隼人さん。これから私が話すことを丁寧に聞いてください」
沙雪の言葉は、やさしい口調だった。
けれど、その言葉には何処か「力強さ」というのか。
僕の胸に迫ってくるような響きを持っていた。
「・・・うん。」
「隼人さんが、探したい人。『かえで』さんについて、
今までのことは、ほとんど調べました。」
「そして『かえで』さんが、どんな人か。私なりに理解しました。」
「だから、報告を隼人さんに話すことができます・・・」
僕は、沙雪の顔を見なかった。
いや、沙雪の顔を見れなかった。という方が正しかった。
少し、うつむきかげんで、
テーブルの「コーヒー」の黒褐色の波紋を眺めている。
「・・・。でも、隼人さん。」
沙雪は、語気を少し強める。
「でも・・・隼人さんには、聞く権利と聞かない権利があります。」
「どうしますか・・・?聞きますか?」
「どういう意味(こと)?」
僕は、沙雪の声に反応するように。
顔を上げて、沙雪を見る。
「・・・。隼人さんにとって・・・
『かえで』さんは、今、思い出の『かえで』さんなんです・・・
でも。私が『かえで』さんのことを話した瞬間・・・
『かえで』さんは、思い出ではなくなるんです・・・」
「・・・」
「たとえ『良い思い出』でも『悪い思い出』でも・・・
『かえで』さんは、もう思い出ではなくなるんです。
今の『かえで』さんを知ったのなら・・・思い出ではなくなります。
それでも、良ければ・・・私の話を聞いてください。
今の『かえで』さんを・・・聞いてください」
沙雪は、淡々と話し掛ける。
けれど、その言葉の節々にはやさしさを感じる話し方だった。
すずしげな印象を受ける子だけど、
沙雪の話し声は、やさしさを感じる気がした。
そういえば『かえで』もそんな印象を受ける子だった気がする。
何処か少し寂しげに写るくらいにクールな印象だけれど、
アンニュイな表情に、ふと垣間見えるやさしい表情が
好きだった。
「・・・」
僕には、沙雪の言おうとしていることが、なんとなくわかった。
僕にとっての「かえで」は、
今このまま沙雪の話を聞かなければ、
「思い出」のままの「かえで」で・・・。
聞いてしまえば「かえで」は、もうあの日の「かえで」ではなく、
今、現在の「かえで」になる・・・。
そういうことなのだろう・・・。
「・・・どうしますか?」
沙雪は、僕の方を見つめていた。
沙雪の視線はまっすぐに僕の目を捉えているようだった。
「・・・うん、聞くことにするよ」
僕の目をまっすぐに見ている沙雪の目を、まっすぐに見た。
静かな店内。
ちょうど、流れていたジャズが途切れている。
空調の音が静かに聞こえる。
それとともに、落ち着いている僕の心音が聞き取れる。
目の前の紅茶の香りがふと薫る。
「・・・わかりました。それでは、話します」
次へ。
へ へ
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