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第3章
4
「Feel」の店内。
僕は沙雪の瞳をみている。
沙雪は、テーブルの上。
自分の手前にある紅茶に視線を落として、
それから、一度僕の顔を見るようにしてから、
話を切り出した。
「かえでさん・・・は、ここには連れて来れませんでした。」
「・・・」
「かえでさんは、高校を卒業した後・・・
旅行代理店の受付をされていました・・・。新宿で・・・」
沙雪は、少し普段よりトーンを低くして、
落ち着いた口調で語りかける。
その声は、僕の耳元に届いては消えていくように、
はかなげな感じを含んでいる。
「そして・・・今は、北海道にいるそうです・・・」
「・・・」
僕は黙っていた。
沙雪の声だけに神経を向けて、テーブルのコーヒーを見つめている。
「かえでさんは、『花』が好きな人だったんですね・・・?
それで、「花の栽培のお仕事」がしたくて・・・。
北海道のおじいさんのお家でお手伝いをしていた・・・そうです・・・」
「・・・」
沙雪の目の前にある「アールグレイ」
紅茶の香りと湯気が沸き立っている。
その湯気がふわりとこの空気に溶け込んでいく。
そして、いつのまにか澄んでいっては、
見えなくなってしまう。
「・・・」
「・・・で?それで・・・「かえで」は・・・?」
「・・・」
「かえでは、今はどうしているんだ?」
「・・・私は、北海道のお家まで行ってきました。
お家は、釧路空港から、車で1時間ほど行った場所にありました。
もちろん、かえでさんに会うためです・・・」
「でも・・・」
「・・・でも?」
「・・・でも、私は会うことが出来ませんでした・・・」
沙雪は、一点に紅茶のカップに視線を注いでいる。
「私が探しきれなかった・・・んです・・・」
沙雪は、そこで僕の目を見るように視線をかえて、
じっと。その視線をそらさなかった。
そして、話を続ける・・・。
「私は、かえでさんの おじいさんのところで働いているなら、
すぐにでも、かえでさんに会えると思っていました。
でも、その住所に「かえで」さんは居ませんでした・・・」
「ですから・・・『かえでさんと会いたい』というご依頼を叶えられませんでした」
「・・・・」
沙雪は、少しうつむいたようにして、
テーブルの端を一点に焦点をあわせている。
きっと、僕の依頼にこたえられなかったことをわびる気持ちなのだろう。
期待していた結果を持って帰られなかったことを、
彼女は、残念というよりも・・・。
すまない。と感じているのかもしれない・・・。
「・・・ありがとう。」
僕は、沙雪に声をかけた。
沙雪は、依頼とはいえ、
かえでを探すために、「北海道」まで行って、
僕のために、懸命だったように思えたからだ。
目の前に居る沙雪の姿。
うつむきかげんにしている。そんな姿をみれば誰にだってわかる。
「かえでが見つからなかったことは、君のせいじゃないんだから・・・」
「・・・」
「・・・あの・・・」
「?うん・・・なに?」
「でも。。かえでさんには、会いたかったんですよね?」
「・・・それは、会えるなら会ってみたかったけど・・・」
「・・・あの。それなら。。私じゃダメですか・・・?」
沙雪は、そのキレイな視線でギュッと、僕を見つめた。
次へ。
へ へ
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