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Sugarpot 書き下ろし
パズルのかけら

第3章



「Feel」の店内。
僕は沙雪の瞳をみている。

沙雪は、テーブルの上。
自分の手前にある紅茶に視線を落として、
それから、一度僕の顔を見るようにしてから、
話を切り出した。

「かえでさん・・・は、ここには連れて来れませんでした。」

「・・・」

「かえでさんは、高校を卒業した後・・・
 旅行代理店の受付をされていました・・・。新宿で・・・」


沙雪は、少し普段よりトーンを低くして、
落ち着いた口調で語りかける。
その声は、僕の耳元に届いては消えていくように、
はかなげな感じを含んでいる。

「そして・・・今は、北海道にいるそうです・・・」

「・・・」
僕は黙っていた。
沙雪の声だけに神経を向けて、テーブルのコーヒーを見つめている。

「かえでさんは、『花』が好きな人だったんですね・・・?
 それで、「花の栽培のお仕事」がしたくて・・・。
 北海道のおじいさんのお家でお手伝いをしていた・・・そうです・・・」


「・・・」

沙雪の目の前にある「アールグレイ」
紅茶の香りと湯気が沸き立っている。
その湯気がふわりとこの空気に溶け込んでいく。
そして、いつのまにか澄んでいっては、
見えなくなってしまう。

「・・・」

「・・・で?それで・・・「かえで」は・・・?」

「・・・」

「かえでは、今はどうしているんだ?」

「・・・私は、北海道のお家まで行ってきました。
 お家は、釧路空港から、車で1時間ほど行った場所にありました。
 もちろん、かえでさんに会うためです・・・」

「でも・・・」


「・・・でも?」

「・・・でも、私は会うことが出来ませんでした・・・」
沙雪は、一点に紅茶のカップに視線を注いでいる。

「私が探しきれなかった・・・んです・・・」

沙雪は、そこで僕の目を見るように視線をかえて、
じっと。その視線をそらさなかった。
そして、話を続ける・・・。

「私は、かえでさんの おじいさんのところで働いているなら、
 すぐにでも、かえでさんに会えると思っていました。
 でも、その住所に「かえで」さんは居ませんでした・・・」

「ですから・・・『かえでさんと会いたい』というご依頼を叶えられませんでした」

「・・・・」

沙雪は、少しうつむいたようにして、
テーブルの端を一点に焦点をあわせている。

きっと、僕の依頼にこたえられなかったことをわびる気持ちなのだろう。
期待していた結果を持って帰られなかったことを、
彼女は、残念というよりも・・・。
すまない。と感じているのかもしれない・・・。


「・・・ありがとう。」

僕は、沙雪に声をかけた。

沙雪は、依頼とはいえ、
かえでを探すために、「北海道」まで行って、
僕のために、懸命だったように思えたからだ。

目の前に居る沙雪の姿。
うつむきかげんにしている。そんな姿をみれば誰にだってわかる。

「かえでが見つからなかったことは、君のせいじゃないんだから・・・」

「・・・」

「・・・あの・・・」


「?うん・・・なに?」

「でも。。かえでさんには、会いたかったんですよね?」

「・・・それは、会えるなら会ってみたかったけど・・・」

「・・・あの。それなら。。私じゃダメですか・・・?」
沙雪は、そのキレイな視線でギュッと、僕を見つめた。

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