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第5章
1
それから、また1週間後。
僕は、彼女。
いや、沙雪にまた出会うことになった。
沙雪に支払う報酬を渡すため。
そして・・・。
短くなった髪だけが、1週間前のまま、そのままに、
沙雪はいつものように、いつもの時間。いつもの場所で落ち合った。
僕らは「Feel」に着くと、
沙雪は、いつも通りにレアチーズのケーキセット。
僕は、コーヒーを頼む。
春めいた日は、もう加速度的にどんどんとあったかくなっている。
けれど、今日は曇った色の空が街を染めていて、
ぐづついた天気を気にかける人の足も、心なしか重く見えた。
きっと、こうしていつのまにかに、
春が過ぎ去っては、すぐに梅雨になる。
もう、店内の空調は、とめられている。
「ほんとう、いろいろとありがとう・・・」
僕は、素直な気持ちを沙雪に語る。
「『かえで』を一生懸命に探してくれたこと・・・
『かえで』になってくれたこと・・・
ほんとう、とっても、嬉しかった・・・ありがとう・・・」
「これ、ほんの気持ちだけど・・・」
キレイな封筒に入れた心ばかりの謝礼分を足した「報酬」を僕は差し出す。
報酬を多くは包めないから、
せめて気持ちとして、封筒はキレイなものを用意してきた。
淡いブルーにホワイトのラインが2本横に入ったものだ。
「あの・・・私、報酬はいただけません」
「?!えっ。どうして・・・?」
「私。隼人さんのご依頼に答えていないですから・・・」
「・・・なんで?そんなことないよ。。いいから。受け取って・・・」
僕は、わざと少し荒っぽいようにして、
沙雪の目の前に差し出す。
そうしないと、受け取りそうもなく思えたからだったが、
それでも、沙雪は引かない。
「でも・・・そういうわけには・・・」
「・・・君に出会って、気が付いたんだよ。
本当は『かえで』に会いたかったわけじゃなかったんだって。
あのときに言えなかった気持ちの整理が出来ていなかっただけなんだって・・・
沙雪が持ってきてくれた「結果」が、どっちでもよかったのかも知れない・・・
って、そんな気さえするんだ・・・今は・・・」
「・・・いいえ。それは違います。」
「!?」
沙雪は、少し、きつく声を向けた。
そうして、そのどこまでもいっても澄んでいるような瞳で、
僕を一瞥するように見てから、視線をはずすようにした。
そうして、少し間を置いてから、語りかける。
「・・・あの・・・隼人さん・・・?」
「・・・何?」
「私。その報酬はどうしても受け取れません。
『かえで』さんに会いたい。というご依頼を叶えられなかったのですから」
沙雪は、ゆっくりと一つ一つ丁寧に、語りかける。
言葉がまるで、のコーヒーから立ちのぼる煙のように、
放たれた言葉は、す〜っ。と、消えていくように・・・。
いつのまにか、馴染んでは消えていく。
「・・・わかった」
「じゃぁ。さ。その代わりに、もう一つ依頼を頼んでもいいかな?」
「・・・はい」
「かえでのおじいさんのお家ってどこにあるんだろう?」
「北海道の何処にあるんだろう・・・?教えてくれないか?」
「!?」
思えば、僕は、沙雪にずっと頼んでばかりで・・・
自分で、何一つしていなかった。
だから、こんどは自分で「かえで」を探そう。と思った。
そして、こんな思いになったのは、
この前。沙雪が「かえで」になってくれたからだ。とも思う。
僕は、自分で出かける勇気が無くて。。
自分で確かめることも躊躇して。。
僕は、いつだって逃げ出していた・・・。
だから、僕は今度こそ、自分で確かめてみよう。
そう、考えた。
たとえ、「かえで」に会えなくても良い。
「かえで」に会えるかどうか? そんなことじゃなくて・・・。
自分自身で「かえで」を探すこと。
探して、見つからないならそれで良い。
とにかく、僕自身で探しに行くこと。
これが今の僕に必要なのかもしれない・・・。
そう、思い始めているから・・・。
「・・・でも・・・『かえで』さんは・・・」
「うん。わかってるよ。君が探しても、会えなかったんだ。
確かに会えないかもしれないし、手がかりも掴めないかもしれない。
それでも。僕は、行ってみよう。そう思うんだ。」
そう言った、その瞬間だった。
次へ。
へ へ
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