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第1章
「ねぇ。明日。花火大会だね・・?」
ゆとり は微笑んで隣を歩く。
大空ゆとり。
僕にとって、幼馴染みは彼女しかいない。
幼稚園の頃から、ず〜っと一緒に過ごしてきて、
小学校6年生の今も、ず〜っと一緒に過ごしている。
これからも、ず〜っと一緒なのかもしれないと・・。
そんな気もしている。
「何時に行こうかぁ?」
「ゆとりの好きなときで良いけど・・・」
「じゃぁ。5時に迎えに行くね?」
「あぁ・・うん。わかった」
僕は、ゆとりのことが嫌いじゃないし、
どっちかといえば・・・好きなのかもしれない。
でも、クラスメイトからは「夫婦。ふ〜ふ」なんてからかわれるのは、嫌だ。
ゆとりは、そんなの「放っぽっておけば、良いよ」っていうけど・・。
どうも、嫌なものは嫌だ。
海からは少し遠い町。
山沿いからも少し遠い町。
川が流れる田舎町。
そこに夕方になれば、夕焼けが広がっていく。
田んぼの風景がキレイに見える。
2人並んだ影が一緒にゆれる。
「わたしねぇ。花火って大好きだよ!」
「前ね。おとうさんが連れて行ってくれた時ね。
肩車してくれたんだけどね。。すっごくキレイだったよ。
それに、夜店も大好き。
かなめ君も好きだよね?」
「あぁ。うん。。」
夕方の空。
東の空にはうっすらと月が浮かぶ。
明日もいい天気になりそうだ。
僕は、夏休みの宿題をしたら、今日は早く寝よう。
そう思った。
2
次の日は、すぐにやって来た。
天気もバツグンに良かった。
「かなめ君」
家の外から大きな呼び声がする。
ゆとりの声だ。とすぐに気がついた。
「今、行く!ちょっと待ってて」
僕は、お母さんが用意した「浴衣」に袖を通した。
本当はTシャツとかで行こうかなぁ。。って思っていたのだけど。。
せっかく、お母さんが用意してくれたし。。
一年にこの時くらいしか、出番の無い「浴衣」を着てあげよう。
そう思った。
「じゃあ。行ってくる!」
僕は威勢良く、奥の部屋にいるおかあさんに声をかけると、
玄関を飛び出すように出た。
「待ったか?」
「!?」
そこには玄関先で向こうを向いて待っている、ゆとりが居た。
ゆとりは、白地に朝顔の描かれたきれいな浴衣を着ていた。
何度か、この時期にはゆとりの浴衣姿を見かけているけれど。。
なぜか。今日はいつもと違う気がした。
「あっ。かなめ君」
ゆとりはおだやかに微笑む。
「ゆとりも浴衣か・・」
僕は動揺を隠すような・・・。
わざと、ぶっきらぼうのようなそんな口調で話し掛ける。
「うん。どうかなぁ・・?」
ゆとりは袖の端を持って見せる。
正直に言って。なんだか、すごく可愛く見えた。
上げた髪に、うなじに残った髪。
いつもは下ろした髪を上げただけ。
なのに、とても可愛く思える。
「うん・・。いいんじゃないか・・」
「ホント?」
「あぁ・・・」
僕もゆとりも照れている。
なんだか、気恥ずかしい。
もう、ずっと前から知っているのに。。
3
花火大会の会場はこの町を流れる川の上流。
河北町の河川敷。
そこまでは、電車で10分くらい乗ってから、少し歩く。
僕とゆとりの2人は、最寄の地元の駅まで歩く。
蝉の声が「ジィジィ」とうるさいなか、
2人の足音がする。
下駄が地面を蹴る音が軽やかに思える。
「2人きりで行くのは初めてだよね・・・?」
「そうだったか・・・?」
「うん。いつもは。お父さんお母さんと一緒だったり。。
友達とみんなで一緒だったり。。」
車道側を僕が歩く。
ゆとりは、左のほうから僕をじっと見るようにして話す。
「楽しみだね?」
ゆとりは、にっこりと笑った。
あげた前髪がかるい夕凪にゆれる。
流れた肩先に触れるくらいの後ろ髪がゆれる。
それが影になる。
5時過ぎに家を出て、会場近くの駅に着いたのは5時40分ぐらいだった。
この花火大会はこの地域では最大の夏のイベントだ。
開始は6時30分だというのに、もう駅前には人が沢山いて、
誘導員のアルバイトの大学生の人が一生懸命スピーカーで呼びかけている。
「ゆとり。気をつけろよ。はぐれないようにな」
僕らは、川岸に続く道を歩く。
僕はゆとりに合わせるようにして、ゆっくりと歩く。
「うん。」
ゆとりは、なれない足元がおぼつかない。
僕は、手を繋いだほうがいいかなぁ?とも思った。
けれど、なんだか気恥ずかしくて、言い出せなかった。
次へ。
へ へ
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