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第2章
1
僕は高校生になった。
あの「ゆとり」と行った、最後の「花火大会」から5年が経った。
あれから、色んなことがあった。
いや、ありすぎた。
「花火大会」の次の日からも、
僕らはいつも通りの「幼馴染み」だった。
もう、夏休みが終わって学校が始まれば、
夏休みの「花火大会」の苦い思い出なんて、話題にもならなかった。
いっつも。一緒に学校に行って、
近所だから、休みの日も一緒に遊んだ。
けれど。。
秋も過ぎて、あっという間に小学校を卒業する頃。
「ゆとり」は、引越しをすることになった。
ここよりもずっと北の街へ引っ越すことになった。
僕は「ゆとり」が居なくなるのが、正直寂しかった。
「居なくなると知って、初めてその人の大切さを知る。」
そんな誰かが言った言葉が、わかった気がした。
僕は「ゆとり」が居なくなるまでの毎日。
普段と何も変わらず、一緒の時間を過ごした。
特に優しくするでもなく・・・。
今までと同じように過ごした。
やがて、引越しの日が来ても。
ならべく、いつもの自分のように「ゆとり」を見送った。
その後。
「ゆとり」から何通かの手紙が来た。
「こっちはまだ寒いんだよ。」とか・・・。
「そっちは、もう暑いのかな?」とか・・・。
そんな風な言葉が載ったハガキが来た。
僕も何通かは、返事を書いた。
「ゆとり」が2通に対して、
僕が1通くらいのペースだったけれど・・・。
返事を書いた。
結構な枚数をやり取りした。
いつも、キレイな文字が連なったハガキ。
僕は、届くたびに嬉しく思えた。
けれど。
急に連絡はなくなる。
それは「あること」がキッカケだった。
それは。。
僕が。。
ゆとりが。。中学校2年生の頃の夏だった。
夏休みの朝早くの電話。
ゆとりのお母さんからの電話だった。
「ゆとりが、自動車の事故で・・・」
僕には、その声が受話器で響いたとき。
立ち尽くすだけで。
何も。。何も言葉も出なかった・・・。
「ゆとりが・・・。いなくなる・・・」
僕には、何も声が出なかった。
頭脳(あたま)の中では、繰り返し言葉が巡るのに・・・。
思いや考えは、声にならなかった。
いつも、笑顔で微笑んでくれた彼女。
いつだって、元気にしていた彼女。
どこにいたって、やさしかった彼女。
そんな彼女が居なくなる訳が無いと・・・。
もう、2度と会えなくなるなんて・・・。そんな訳がない・・・。
そう思いたかった・・・。
ゆとりが居なくなる。
そんな現実は受け入れたくなかった。
でも。。
けれど。。
いつの間にかに。。。
それが事実だと・・・。
それが現実だ。と僕の頭脳(あたま)に認識されていく。
それに抗おうとしても・・・。
どんなに抗おうとしても・・・。
僕は。。やがて「現実」を受け入れる。
僕は、涙が溢れて止まらなかった。
天を見上げて溢れる涙を止めようとしても、
あとからあとから、止まなかった。
その涙は・・・。
「ゆとり」が居なくなった「現実」が悲しいこと。
そして、それよりも・・・。その涙は・・・。
そんな「現実」をいとも簡単に・・・。
たやすく受け入れている自分が「存在」すること。
そのことに対する悲しみや憤りに向けてのものだった・・・。
2
あれから・・・。
その「事故」という「現実」から3年が経って、
僕はもう高校2年生になっている。
今日から「夏休み」が始まる。
高校2年生の「夏」がやってくる。
「夏」が来るたびに。
「ゆとり」のことを思う。
「ゆとり」との夏。
僕は3年前の夏よりも、5年前の夏の方を思い出す。
「ゆとり」と楽しく過ごした最後の「夏」だから。。
楽しく。笑った顔しか僕には浮かばないから・・・。
そうして。今年の夏。
僕は「ゆとり」のいる街「北里町」に降り立つ。
「あぁ・・・」
ひとつ、伸びをする。
夜行の鈍行に乗って、ここ、北里町まで乗り継ぎやってきた。
本当は、新幹線を利用したいが・・・。
なにぶん高校生には、値段が張る。
5時間かけて、鈍行電車に揺られてきた。
朝の町。
北の町。
朝陽に照られる駅舎。
田舎らしい白い木製の駅舎。
駅前の小さなロータリーにはタクシーが2台。
ちらりと、運転手は朝早い僕の登場に目を向けるが・・・。
僕に乗る気が無いのを察すると、すぐにラジオに耳を傾ける。
僕は、右手のカバンをぶらさげて海に向かう。
海へは、この「北里町」の駅から歩いていける距離らしい。
先日、インターネットで調べておいたが、
徒歩でも15分程度とのことだった。
朝の日差しがアスファルトを輝かせている。
僕の住む街よりも、ずいぶんと北に位置するこの町。
それでも、今日も暑くなりそうだ。
15分も経たず、急な坂道をゆっくりと上がると。
海が現れた。
白い波と水平線。
誰もいない浜辺が見えた。
僕は少しだけ歩みを速める。
なんともなしに・・・。
足が・・。心が・・。はやるのだろうか・・・?
テトラポットが並んだ海岸。
その向こうには砂浜が、ずっと続く。
朝陽に照られた海は、プリズムを僕らに見せてくれる。
次へ。
へ へ
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