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第4章
1
僕は、陽太郎とゆかりの朝の散歩に付き合った。
そして、ゆかりは、一度家に戻ってから来るということになった。
それならば。。
あまりに暑いから、少し暑さの抜ける4時ごろに会おうと約束して、
ゆかり達とは、海辺でわかれた。
それから、僕は「ゆとり」のいた家。
つまりは「ゆとり」のお母さんにご挨拶をすることにした。
ゆかりと約束をしてわかれたのが12時ちょっと前だったので、
駅前には、たった1軒しかなかったお店。
おそば屋さんで、昼ご飯を取ってからお邪魔することにした。
最初こそ、ゆとりのお母さんは驚いた表情を見せたが、
すぐに、僕を家の中へと招き入れてくれて、
淡々と、この町に来てからのゆとりのことを教えてくれた。
水泳部に入っていたこと。
少し背が高くなって、クラスで前から5番目になったこと。。。
そして、僕との文通を楽しみにしていてくれたこと。など・・・。
ゆとりの写真を持ってきては、僕に見せてくれた。
微笑みをつくりながら、
時に寂しそうに声を・・・
そして、目元を抑えながら・・・。
ゆとりのお母さんは、どんなに悲しんだのだろうか?
交通事故で亡くなった娘。
愛する娘を失った・・・
悲しみ。失望。怒り。
そんな感情は、どこにぶつけたのだろうか?
写真の一枚一枚が・・・。
僕に微笑んでくれる。
ゆとりの笑顔が好きだった。
いつだって、笑顔をくれた君。
アルバムの中から、ゆとりのお母さんは選ぶようにして。。
何枚かの写真をゆずってくれた。
赤ちゃんのゆとり。
幼稚園のゆとり。
小学生のゆとり。
そして、この町に来てからのゆとり。
どれも、笑顔で写ったゆとり。
僕はそのうちの一枚をカバンの取り出しやすいポケットにしまった。
2
そうしているうちに、時間は経っていく。
結構、長居してしまった僕は、あまり長居するのも悪いと思い、
話を聞き終えると、なんともなしに
「これから、ゆとりに会いに行って来ます」と切り出した。
ゆとりのお母さんは、
「えぇ。ありがとう。。とても、ゆとりが喜ぶわ。ありがとう・・」
と、つとめて微笑むと。
慌てるようにして、奥の部屋から何か持ってきていた。
「これ。ゆとりが大事にしてたものなんだけど・・・」
「!?」
それには見覚えがあった。
一緒に過ごした最後の夏休み。
花火大会ではぐれた僕らは、その次の土曜日に近くの神社の縁日へ行った。
あのとき。僕は、ゆとり と一緒にやった射撃をした。
その時、僕がとった景品を、ゆとりにあげた。
それが、目の前にある「たぬきの貯金箱」だ。
「これ・・・」
「そう、あの子。すっごく大切にしてたわね『かなめ君にもらった』って・・・」
どこにでもありそうな貯金箱。
下手したら、銀行なんかに行けば・・・無料でくれる。
そんなポリ製の軽い「たぬきの貯金箱」
ゆとりは、こんなものを大事にしていてくれた・・・。
そう、この「たぬきの貯金箱」を大切にしてくれたということは・・・
僕との思い出を大事にしてくれていた「証」だと思った。
「・・・だから。ね?かなめ君に持っていて欲しいの・・・」
「はい。ありがとうございます。大事にします」
僕は手にもった大きなカバンに大事にしまった。
次へ。
へ へ
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