第2章
彼と私は学部が異なってはいましたが、
彼の都合のいいときには、バイトを空けては会っていました。
彼は大学院に進学しようと思っていました。
それほど、彼はロボット工学にのめりこんでいたのです。
そんな真剣な横顔を見るたびに、
私は素敵な表情をする人、魅せる顔だ。と思いました。
こんなに素敵な人なのに。
どうやら、付き合っている人もいないようですし、
なにより、彼には友人らしい友人がいませんでした。
確かに近寄りがたいような雰囲気のある人なのですが。
彼が談笑しているような場面はみたことがありませんでした。
そんなある日。
彼は大学に来なくなりました。
私は1週間か、それぐらいは会っていなかったのですが、
きっと忙しいのだろう。と思っているだけでした。
今思えば、なんで気が付かなかったのだろう?
そう、思うと・・・。
悔しいのですが。
彼と会えなくなって2週間くらい経った頃だったと思います。
私はやっと、彼に携帯電話で連絡をとります。
それも、学校に来ていないことはまだそのとき知らなかったのです。
「TRURURUUU・・・」
彼の携帯にはつながりませんでした。
呼び出し音が聞こえるのに、何度かけても出ませんでした。
私はそこで、やっと嫌な予感がしました。
彼が電話にでないこと。そんなことが今まで一度もなかったからです。
たとえ、出なかったとしてもすぐに連絡を返す人だったので。。
嫌な感じがした私は、めずらしく行動的に動きました。
彼の所属する学部に問い合わせて、
彼の所在を確かめに行ったのです。
彼が学校に来ていないことは、ここで初めて知りました。
私の嫌な予感は的中してしまっていたのです。
彼が大学を休むことなど、まず考えられないからです。
彼の家の場所もなんとか調べ終えると、私はすぐに電車に乗っていました。
こんな形で彼の家を知ることになるとは思いませんでしたが、
私は、彼のことが気がかりで。。
そんなことはどうでもよかったのです。
彼の家は大学から1時間近くも電車に揺られた、
都下のはずれ町にありました。
彼が住むアパ−トは、いかにも古ぼけた木造でした。
「1ルーム」というよりも、6畳間というほうが似合うような部屋。
そこが彼の住まいだったのです。
田舎から出てきた彼には、これが精一杯だったのかもしれません。
親からの仕送りも極力少なくしそうな感じの人だったので。
私は、彼の部屋の前に立つと、
すぐにドアブザ−を押しましたが、返事は返ってきません。
仕方ないので、少しこの場で待つことにしました。
が、夕刻をすぎ。
夜中近くになっても、彼は帰宅してきませんでした。
どうやら、本当に嫌な予感が現実さをまして、迫ってきました。
私は、心配でなりませんでした。
彼女でもないのに、
それまで心配なのは、不思議に思われるかもしれませんが、
私は彼のことが好きでしたし、
なにより、彼のことを私が見てあげなくてはならないような気がしていたのです。
彼には少なくとも私の知る限り、友人もいませんでした。
と、すれば。
私が一番、彼に近しい人物だと考えられたからです。
夜になっても戻らなかった彼が心配で、
次の日の朝早く、私は家を出てすぐに彼の家の大家さんをたずねました。
「あぁ。皆元 (みなもと) さん・・・のお知りあい?
最近、そういえば見かけないわね。。先月の家賃もらった時から会ってないわ」
大家の50代とおもわれる女性は淡々と話してくれました。
「あなた?皆元さんの彼女?」
「いえ、違います。。。」
「そう?」
私は、彼が私に何も言わずにどこかへ行ってしまったことが、悔しく思えてきました。
私は、彼にとってどんな存在だったのだろうか?
彼にとっての「私」は、何者でもなかったのかもしれない・・・。
そう思うと、悔しくさえ思えたのです。
私は。彼の部屋に入りたかったのですが・・・。
鍵もないですし、
大家さんにも、そんなことは言えませんでした。
「彼女」でもない人間が、「鍵を貸して」なんて頼めません。
仕方なく、私はそのまま帰る・・・。
そう考えたときでした。
私の携帯にメールが届きました。
アドレスは彼のアドレスでした。
その瞬間、どう考えたか?なんて覚えていませんが・・。
手早くそのメールに目を通したことは覚えています。
そのメールは普通の携帯メールとしては長かったんだと思います。
「なごみへ。君のことだ。僕を探しているのではないか?と思い、メールした。
探していないのなら、おせっかいなメールだけど。もしも、探しているのなら、
探さないでくれないか?そのうち、会いにいけたら行くから。今は探さないでくれ。
では。その時まで。」
私は、少しホッとして。
でも、その安堵よりも、ますます彼が心配になるようでした。
けれど、彼が探さないで欲しいのなら。。。
私はそうするより他がありませんでした。
たとえ、探したくても・・・。
今、何処に居るか?一つの手がかりもないのですから。。
それから、幾日が経った朝。
私は彼の身を案じてはいましたが。
一度あったメールで少し安心してしまったのでしょうか?
その前までの日々に比べ、彼のことを考える時間は減っていました。
そんな時、一本の電話がかかってきました。
「皆元さんのお知りあいですか?」
「はい。そうですが・・・それが・・・」
「そうですか。今すぐ、暑まで来ていただけますか?」
「!?」
私は電話を切って、すぐに言われたとおりの場所にある「警察署」に行きました。
次へ。
へ へ
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