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Sugarpot 書き下ろし
風のある風景

第2章

3

来斗・来夢は学習能力がある。
その点でもっとも人間に近いロボットと言える。
AIという「人工知能」という言葉生まれて、数十年くらいは経つ。

でも、大概の人工知能は前もってプログラミングされたことを処理することには長けていたが、
自分自身での判断は出来なかった。
けれど、来斗と来夢は違う。
自分たちで学ぶからだ。

実際に体験したり、見たり耳にしたりして、人間のように学ぶ。
だから、彼らは新しく生まれた言葉も理解する。
略語や新たな専門用語なども理解できるのはそのためだ。

また、言語能力に関わらず、彼らは感情や情緒も自分で学ぶ。
この点で今までのロボットとの大きな違いが一つある。
それは、「死に対する感情」だ。

彼ら、ロボットには死がないと思われることが多かったし、
実際に自家発電のロボットは何体も発表された。
だけれど、この来斗と来夢は違う。

老朽化ということを覚えるからだ。
自分の中と外。全てが老朽化することを覚えるからだ。

手足などの身体のパーツは金属疲労すれば壊れる。
頭脳のハードディスクがいっぱいになったら、上書きするしかなくなる。
そうなってしまえば、覚えたことなどを一つずつ忘却することになる。
これらが、彼らの内面の問題。

しかし、それらは僕が居れば、治したりできる。かもしれないけれと・・・
けれど、その僕が居なくなったら・・・。
彼らは誰が治す?

頭脳に使われたCPUやハードディスクはいつかは必ず、「昔の技術」になってしまい、
そのCPU・ハードディスク自体が存在を消したら・・・どうやって治す?
これが、彼らにとって外側の問題。

だから、彼らは「死の感情」を持つ。
少し、僕の考えと違うのは「死そのものよりも死までのプロセスが恐い点」かも知れない。

けれども、人間と異なることも勿論ある。
まず、食事をしないこと。

食事の代わりが充電だが・・・。
彼らは歩くごとに自分自身で充電されていくし、光発電もおこなっているので
だから、取り立てて定期的に必要ではない。

が、一応人間の眠る時間は彼らも休む。
地下室の4つある部屋の内の2つの部屋が彼らの部屋だ。
四方から発生するレーザー光線を電気に変換させるように機能されているから、
ベッドに横たわると自動的に充電される。
線で結んだりはしない。寝返りを打ったらはずれるからだ。

そして、もうひとつ。
彼らはまだ完成形ではないため、
感情の表現が限られている。
というよりも人間によって制限されている。と、言った方がいいだろう。

つまり、これは。
彼らロボットは人間に対して決して反抗しない。という条件だ。
この条件は過去に製作されたロボットすべてに適応されてきた。
人間が「よりよい生活」のために作られたロボットなのだから・・・。
その歴史上で一度たりとも人間に反抗などしない。

だけど・・・。父が・・・。
そして僕が・・・。組もうとしているプログラムは・・・。


4

「こんこん・・」
ノックがした。

「どうぞ・・・」
来斗はお辞儀して入る。
彼の目にはセンサーがある。
このセンサーで相手が誰なのか判別するが、
彼に見られた人間の方はセンサーの光が微弱でよくわからない。
そして、彼らは一度覚えた人間は記憶に残すから、決して忘れない。

「お待たせしました・・・」
来斗は敬語しか知らない訳ではない。
彼は普通に会話も理解する。
けれど、そのような言葉を用いないだけだ。

「有難う」
僕はコースターごと受け取る。
カップもソーサーも青磁で出来たものだ。
花柄の青磁は紅茶にもコーヒーにも、とても似合う。
琥珀色のアメリカンコーヒーが僕は好きだ。

「・・・来斗。来夢(ライム)は?」
そう、来夢とは彼の妹(R08-Style18)のことで、
彼女も来斗と同じロボットだ。

「はい、来夢は地下室に居ます」
来斗は少し微笑む。
表情も豊かに表現する。
顔立ちは、穏やかな顔立ち。髪型は少し長い。
眉毛が表情に豊かさをもたらせている。

「そう・・・。後で僕も行くよ。あ、それで・・・来斗。」
「昨日、この部屋でプログラムしたデータを今、地下室の方へ転送したから・・・」
「これ、簡単な説明書。OUTPUT(印刷)しておいたから、読んどいてくれる?」


「はい」
来斗は手にとると、一枚目に目を置く。

「じゃ。ありがとう。先に地下室に行っていて、あと30分くらいしたらいくから」
「はい」
ドアを閉める前に軽く会釈して、来斗は地下室に戻った。


僕は、父親の影響だろうか。
プログラミングを小学校6年生の頃から組み始めた。
父は、科学者だった。
プログラミングの中でも、とりわけロボット工学の専門家としては有名だった。

年中、忙しそうにしていた。
家族で旅行に行ったのも数えるくらいしかないくらい。

それでも、僕が簡単なプログラムを書くだけでも、嬉しそうな顔を見せた。
今よりももっと稚拙なプログラムでも、良い点ばかり取り上げて誉められたものだ。
その父がいなくなった、あるじのいない研究所。
そこが、僕の家の地下室だ。

父はあるプロジェクトの発表、講演会に出席した。
本人はあまり出たがらなかったが、訳があって出ないとならなかったらしい。

僕には、その日の発表内容は今でもわからない。
けれど、その内容は誰にも発表されることは無かった。
父は発表直前、何者かに殺されたからだ。

そして、父がいなくなって何日か経ったある日。
僕は地下室の研究所に入った。
父は僕を何度かこの地下室へ招き入れたが、その時は約2年ぶりだった。

そこに残されていたのが、来斗に来夢だった。
僕は、父がロボットを作っていたのを知っていたので驚くことはなかった。
が、父の制作した今までの中で一番、頭脳がよさそうだった。

それから・・・。
いつでも、父がいた部屋のPCから、あるプログラムを見つけた。
父が書き残したプログラムだ。

そのプログラムを僕は今、組もうとしている。
父が途中まで書いたもの。
ここまででは、正直言って父がどんなプログラムを書こうとしていたか?
半分もわからなかった。

けれど、何故か。僕は今でもそのプログラムを続けている。
それが、さっき来夢に説明したデータだ。


5

コーヒーをのみながら、椅子に深く腰掛けて窓の外を見た。
朝見た朝陽は夕陽になっていく。
風はゆるやかに吹く。
木々はさざめく。

30分後、約束どおり、僕は地下室へ向かった。
地下室へは、一階の小部屋からエレベータで繋がっている。

地下室は独特の雰囲気を持っている。
冷えた空気。
音はない。こちらが発っしてから、反響する。
スチール製の本棚がずらりと壁沿いに並ぶ。
天井のライトはワット数が低いらしく、うっすらとしか照らさない。


地下室は4つの部屋がある。
カギは地下室へ繋がるエレベータを降りたすぐ、
鉄製の重い扉のところに「声紋認証」と「顔の骨格認証」でカギがかかっているが、
それぞれの部屋には簡単な指紋認証しかないし、それも通常はOffにしてある。

「どなたですか?」
来斗や来夢のように流暢に話さない。
いかにも機械の声だ。

「将紀(まさき)」
どうも、いまだにこのシステムは苦手だ。
相手は完全な管理システムで見えもしないのに、声をかけるからだ。

「将紀さんですね?どうぞ、お入りください」

声は天井の簡易スピーカから聞こえる。


エレベータを降りて管理システムを過ぎると、まず大きな部屋がある。
このエントランス的な役割の部屋が、ちょうど家の真下になる。
家一個分すっぽりだ。だいたい900平米くらいだろう。

そして、それぞれの3部屋へは、ここから繋がっている。
3つの部屋は、それぞれ赤・青・黄色のドアで区別され、
東側、南側、西側に分けられている。
それぞれの大きさは、僕の部屋の2個分くらいだろう。
これらは、庭の下になる。

僕はスリッパの音をパタパタさせながら、エントランスへ向かう。
スリッパ音が響くエントランス。
向こうに「来斗と来夢」の兄妹(きょうだい)がいる。

無機質な部屋の真中にはPCサーバが構える。
サーバは大きい。縦3m×横5m×高さ3mくらいの大きさもある。
まぁ。CPUもメモリーも搭載数を考えれば仕方ないだろう。
データを保存するハードディスクは、古臭いものも流用しているが、増設した。
ハードディスクはチョット前まで磁気ディスクだったが、
今は膨大なデータも扱えるように、光レーザーを使ったものが主流で、
このサーバにも内蔵されている。

来斗たちは、プラスチックの椅子に2人仲良く腰掛ける。
僕の部屋にあるのとおそろいで買ったやつだ。


「どう?今回のは?」

僕は2人に声をかける。
来斗がキーボードとマウスを動かす手を休めないので、来夢が振り返る。
「あっ将紀さん。 はい。今、見ているところです」
歯切れの良い声でこちらを見る。

来夢も、父が残したロボットだ。
ほぼ同時期に作られたので、双子ともいえる。
髪型は短くストレート。顔立ちはかわいく作られている。
瞳は大きいが、まつげは無い。
上は白のブラウス。下は薄い青で長めのスカート。
今は靴を履いていない。スリッパを履いている。


「今回のは上手くいきそうだ・・・」

僕はプロジェクトを始めて、5年。
今までに無い手ごたえがあった。

プログラム。データソース。スクリプト。
ここらを書き上げるのに3年もの年月。
それらを練り上げていくのに2年。
ようやく、実を結ぶ時がきたようだ。


「はい・・・。これで上手くいくかもしれないですね?」
来斗はディスプレーから目を離すと、背中ごとこちらに向けた。

「そう・・・?」
「はい」
来斗は元気な声を返す。

「ありがとう・・・じゃあ、悪いけれど。そのデータをサーバに格納しておいてね」
「はい」

僕はきびすを返した。

第2章 終わり  
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