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Sugarpot 書き下ろし
風のある風景

第3章



「さてっ・・・と。」

僕は約束よりも15分早く着いた。
出かけるついでに、本屋に寄って 「いい本があるか?探そう」 と考えてのことだ。
頻繁に通う本屋でない方の本屋に立ちよったからか、
何冊か、面白そうな本があったが、荷物になるので次回の機会にまわすことにした。

駅の周辺はさすがに人が多く居る。
日曜日のこの時間だからだろうか?
待ち合わせは駅ビルの入り口にあるファーストフード店にしていた。

店内に入ると、昼ご飯代わりに「おおきなハンバーガー」をほおばる人。
カップルで楽しそうにデザートに舌鼓をうつ女の子。
家族連れで買い物途中のお父さんは喫煙席でぷかりとタバコを吸う。
結構、にぎわっている。

僕はざっと店内を見回す。

と・・・。
ゆりこが奥のほうの、禁煙2人がけの席で手を振っていたので、
合図を返してから、レジカウンターで注文をすまして向かった。


「こんにちわ」

ゆりこは当たり前だけど、制服を着ていない。
半袖の丸首シャツに、ブラウスを羽織っていた。
その淡いブルーが夏の到来を予感させる。
そして、 スカート はすこし長めのホワイトカラー。
青と白の涼しげなコントラストが眩しい。
少し、大人っぽくみえるのは、化粧のせいでは無い。

「やぁ。早いな、お互い・・・」
僕は2人がけの椅子の向かいに腰掛ける。
「いきなり。だったけど・・・。大丈夫?今日予定とか無かったか?」

「ぇ?うん。ぜんぜん。まったく無いよ」
ゆりこは手を顔の前で大きく左右に振った。

「なら、いいんだ・・・」

ゆりこの目の前に置かれたトレーには、
中身はオレンジジュースと思われる紙コップがひとつだけ、ちょこんと、のっかっていた。
おなかはすいていないのだろうか?

「・・・なぁ。ゆりこはこういうところ。来たことないのか?」
「え?なんで・・?」
「いや。ただ、今も何も食べてないし・・・さ。あんま、来ないのかなぁ・・・って」
「・・・そんなことはないよ・・・。そんなには・・・こないんだけどね・・・」
「そう?そうか・・・」

お嬢様育ちのゆりこは家が厳しいのだろう。
きっと、ゆりこのお母さんに「栄養のあるものを食べなさい」とか、
「バランスのいい食事をしなさい」とか言われるのだろうか?

「でも、私。ハンバーガーって好きなんだ・・・。」
「中学生の頃かな、みんなで食べたとき。すごくおいしかったから・・・」


「へぇ〜」
僕はアイスコーヒーのプラスチックのふたを取り、ガムシロップをいれて、
そのまま、ふたをはめずに、ストローをさして飲む。


「ねぇ。これから何処に行くの?」
ゆりこはにこやかに話す。
声もすこし高かった。

「いや、別に決めてないけど・・・ゆりこの行きたいところへ行こうか?」
「え・・・?そう・・・?じゃぁ・・・そうだねぇ・・・」

僕の顔をじっと見つめるようにして、しばらく考える。
視点の焦点は確かに僕の鼻先にあったが、見てはいない。
考え事をしているだけのようだ。

「ね?ゲームセンターへ行こうかぁ?」
「とも、思ったけど・・・やっぱり・・・。定番で映画館に行こうよ?ね?」


「いいけど・・・。何か面白いのやってるか?まぁ、いいや。そうするか・・・」

「うん!」
ゆりこは、満面の笑みを見せる。
ゆりこの笑顔を見ていると、こっちまで笑顔になるようで・・・眩しく思う。

「はじめてだね?将紀くんとこうして会うの?」
「そう・・・?だったっけ・・・?」

そういわれてみれば、そんな気がした。
ゆりことは「良く遊びに行く」が、
思い起こせばいつも「亜季」や「かなめ」や「毅(つよし)」が一緒だったような気がする。

遊園地へ行ったり・・・。亜季のコンサートに行ったり・・・。
ホント、楽しい思い出が多いけど・・・。
確かに2人で会って遊ぶことって、無いかもしれなかった・・・。

「うん。将紀くんとは中学校で一緒になってから、初めてだよ」
「そう?かもな・・・」
僕は、アイスコーヒーを飲みながらこたえる。

「楽しみだよね?映画っ!」
ゆりこはそういうと、ストローに口をつけた。




僕らは、映画を見ることになった。
ファーストフードのお店を出て、この駅ビルの一番上の階。
15階に映画館はある。
そこまで、エレベータで上がっていく。

この駅ビルのエレベータは外側がガラス張りになっている。
そのため。このエレベータで上階へむかうと、
まるで遊園地のアトラクションのように・・・。
この街の景色が一望出来る。

「すごい景色だね?」
ゆりこは楽しんでいる。外側から街を眺める。
エレベータが上階へ向かうほどに、地上の人や車が小さくなっていく。
軽い気圧の変化があるように、耳がつ〜んとする。

映画館につくと、様々な映画がところせましと競うように看板が掲げてある。
「アクション大作」「感動もの」「恋愛もの」「アニメ」「お笑い系」「ホラー」「サスペンス」など・・・。
ジャンルも色々なら。制作している国も色とりどりだ。
アメリカ・フランス・香港・韓国・中国・・・日本・・・。


「ねぇ?どれにしようか・・・?」
ゆりこはどっかからもってきた今日の上映映画のスケジュールをもっている。
「そうだなぁ・・・」
僕はそのスケジュールに目を落とす。

個人的には「アクションもの」が好きだ。
特にストーリーよりも、アクションシーンの派手な場面が満載!っていうような、
ド派手な映画が一番好きだった。
だけど、今日は僕一人で見るわけじゃない。
ゆりこが見たいものにつきあってみようか?と考えた。

「ゆりこはどれが見たい?」
「・・・。そうだね・・・。う〜ん、これなんてどうかなぁ・・・?」
ゆりこは、スケジュールに指をさした。

「あっ。これか!これ知ってる!CMで見たよ」
「うん。私も・・・」
「そうだな。これにしよう!」

ゆりこの選んだ映画は、グラミー・アカデミーノミネート候補。の映画だった。
結構、宣伝も見たが。いかにもお金のかかったキャストだし、
いかにも、賞ねらいの路線の作品だろう。
いわゆる「感動もの」だ。

どれを見るか決まってしまえば、あっというまにことが進んだ。
上映開始もちょうどいい時間だったし、
まんなかのまんなか。という、
長時間でも首が痛くならないベストの位置でゆうゆうと座れて見れた。

どうも、映画という産業自体が衰退しているのだろうか?
映画館に足を運ぶ人は少なくなったようだ。
DVD(UMD)(家庭向け映像)化が早くなって、
公開して半年も経たずに、家で見れるようになったからかもしれない。


見た映画は、「感動作品」とやら言われて宣伝されているものらしい内容だった。
恋愛ものよりは良いと思いつつ、切符を買ったが、
そんなに変わらないものかもしれなかった。

内容が・・・。どうも僕には気に食わなかった。
「めぐまれない子供」がそれをアピールして物乞いをするシーン。
一生懸命に神に祈りを捧げるシーン。
何もかもがわざとらしく思えたからだ。

それは、映画という「人間の視点」からものを捕らえたからかもしれないし、
映画作りという「莫大なお金」をかけているものに対して、
「貧困」を映し出すのは難しいからかもしれないが・・・。
一番の原因は演じている役者にあったのかも知れない・・・。

上映時間の半分(1時間)以上はたいくつだったが、
僕らは上映中は一切、話し掛けたりしなかった。
ゆりこはそれなりに楽しんだようだ。

恋愛ものを選ばず、こういったものを選ぶのも彼女らしくて、ほほえましく思えた。
そして、何よりも。
それなりに感動はしていたようだが、涙は見せなかった。

「そこまで」の作品なのは確かだが、
例え心から感銘しても僕には涙は見せないだろう。

「人前で涙を見せたくない」
そんなゆりこが、ゆりこらしく思えた。
                 
                    
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