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第5章
3
工学の授業は、楽しかった。
携帯ラジオ。なんて・・・。
今時、緊急・災害時でもなければ使うことも無いものを作った。
けれど、それなりにみんな真剣に作っている。
「工学」は僕にとって、一番好きな授業かもしれない。
昔から、配線とかそういった類の作業がすきなのだ。
それと・・・。工学の成績はいつも良かったからかも知れない・・・。
「工学」の授業は、男も女の子も行う。
もちろん、そういった意味では、男でも「家庭科」で裁縫すれば、料理もつくる。
まぁ、当たり前といえば当たり前だろう。
男だって、「テーラー」や「料理人」になるし・・・。
女だって、「研究室員」や「建築家」にもなるのだから・・・。
今日の工学は他のクラスと合同だった。
3組と5組の男子・女子が一緒に制作をする。
僕はもくもくとハンダ付けで、配線を繋ぐ。
あの鉛が溶けるにおいが部屋のあちらこちらからする。
解けていく鉛。
あがる白煙。
ジュッという音。
あちらこちらでする。
「おい。将紀!」
隣の席の笹木かなめは「ハンダゴテ」を持ったまま、
こちらに話題を振る。
「うん?何?」
僕はちょうど、一段落がついたところで手を休める。
「あのさぁ。今度、俺ん家に来てくれないか?」
「おまえが来てくれれば、安心だからさ・・・」
「・・・?いいけど・・・。何しにいくんだ?」
「あぁ。ちょっと最近、妹のパソコンが調子悪いらしくって・・・さ。」
「将紀なら、詳しいし・・・見てくれるか?」
「ふ〜ん。いいよ!いつでも・・・」
「わるいな」
かなめは作業の手を休めずに話を続ける。
「まったく。まいるよ・・・。俺だってわかんねぇ・・・っていうのにさ。
有紀のやつ。『お兄ちゃん。おとこでしょ!』とか言いやがるの!
直せネェ。って、男でも・・・な。
だけど、まぁ。将紀が見てくれるんなら、助かるよ」
「う〜ん、ま。直るかどうか?わかんないけど・・・
見てみて、原因がわかれば・・・直せると思うけど・・・」
笹木かなめは、妹思いだ。
妹の名前は、笹木有紀。
今、彼女は「中学校3年生」だったと、思う。
何度か、有紀ちゃんには会っているから、お互い顔見知りではある。
でも、その妹思いの兄。だからかだろうか?
妹の方も「兄思い」の子。っていう印象を受ける。
「ほんと。わるいな!」
「いや。別に・・・どうってことないけど・・・。すぐに直ればいいな」
かなめは、少し僕の目を見るようにして、ハンダゴテの手を休めた。
その時だった・・・。
「きゃぁ〜〜〜〜」
女の子の甲高い声が工学教室中に響く!
声は背後からした。
僕は反射的に振り返っていた。
「!?」
目の前で、事件は起きている。
「どうした?」
かけるように担当の先生は、熊のような大きな身体をゆするように駆け寄ってくる。
が、そのかけた声は冷静だった。
「・・・?」
声をかけられた本人はキョトンとしている。
そして、その目の前には・・・。
「・・・?どうした。イケタニ?」
先生はその子の名前を呼びながら、近づく。
が、あくまで冷静な声だ。
まぁ、風貌からしてそういった声でないとバランスが合わないが・・・。
何か、緊急時には頼りになりそうな印象を抱かせる。
本当はどうか?わからないが・・・。
少なくとも現状においては、適切な対処をしているように思える。
「あ。。いえ・・・なんでもありません」
そういう女の子の目の前からは、こげくさい異臭が漂う・・・。
プラスチックを燃やした匂いだ。
「・・・」
工学担当の男性教師は、ひげをかるくなぞって、ひとしきり様子を見て、
何もいわずに、もとにいた場所にゆっくりと引き返す。
目の前の「イケタニ」と呼ばれた女の子は、
「しゅん」とした顔を見せていた。
髪の毛を両サイドで結んだ黄色いリボンも「しおらしく」見え、
そのツインテールも「おとなしく」なっている。
彼女は、私服のときは必ず?と言ってぐらい、帽子を被っていて、
メジャーリーグの野球帽のようなキャップ・・・。
ハンチングハットみたいな帽子や、テンガロンハット・・・。
いかにも画家が被りそうなベレー帽みたいのを被っていたり・・・。
とにかく、いっつも「帽子」を被っている。
何種類も持っているようだ。ああなると趣味に近いものがある。
彼女の名前は「池谷めい子」と漢字で書く。
が、「イケタニ」ではなく「イケガヤ」が彼女の苗字だ。
だが、大概。今の工学教師のように「イケタニ」と彼女は呼ばれる。
僕やかなめと、めい子とは小学校から高校までずっと一緒の学校だったが、
今は、クラスが違うため、あまり頻繁には会わない。
今日は工学の授業だから、一緒に授業を受けているが・・・。
「おい。どうしたんだ?」
かなめが僕を先んじて、話を聞く。
「えっ。うん・・・」
めい子はそう言うと、目の前の黒く解けた物体を指差しながら、
かなめの目をまじまじと見る。
「いや、それはわかるけど・・・。何がどうなってこうなったんだ?」
「・・・うん。あのね。ラジオ作ってたら・・・外から子猫の声がして・・・
それで・・・ハンダゴテもったまま、そっちの方見てたら・・・。
絵美にもらったキーホルダーが・・・。」
めい子は、溶けてとてもキーホルダーの役目を果たすことはできなくなったものを見ながら
「ごめんね?絵美・・・」
と、その隣の席に座っている絵美に声をかけた。
絵美と呼ばれた女の子は、
「うん。しょうがないよ」というと、微笑みをめい子に傾ける。
一之瀬絵美。
めい子とは、仲が良い。
「かなめ」と「めい子」と「絵美」と僕は、幼馴染みとでもいえる。
小学校が一緒だから・・・。
だけれど「絵美」は、中学校に入る頃になってこの街{朝日ヶ丘}から、札幌へ引越しをしたため、
僕らと中学校は違う。
でも、高校に入る頃。この街に戻ってきた。
本人いわく、「朝日ヶ丘が良い街だから、戻ってきた」らしい・・・。
「ほんと、ごめんね・・・」
めい子は、平謝り。
「うん」
絵美は、微笑む。
めい子は自分でも気にしているようだが、身長は高くない。
151cmだと自ら公言している。
と、比べて、絵美は女性としては高いほうだろう。170cmはある。
それに・・・。
めい子の髪型は「リボン」や「ゴム」などで止めている印象が強いが、
絵美は、きれいなストレートの黒髪で肩よりも少し長いぐらい。で、
その「身長」「髪型」の差? から・・・。
先輩後輩。あるいは姉妹のように見えないこともない。
「それさ。この前、みんなでゲーセン行ったとき取ったヤツだろ?
あの。あらいぐまだったか?そんなヤツ・・・」
かなめは、絵美に話し掛ける。
「うん。そうなの・・・」
「あれ、まだ。あのゲームセンターにあったぜ。
今度、また取りに行くか? なぁ。池谷!」
かなめは、ひょうひょうとした顔で話す。
「ぇ。うん!行こう!ねぇ。絵美?」
「うん。そうね・・・」
かなめというヤツは、ひょんなところで優しさが現れる。
そういうヤツだ。
普段は何気ないし、そっけない・・・。
そんな印象さえ受けるけれど・・・。
ふとした優しさが顔を覗かせるときがある。
そんなところが、とても男女問わずに好感を持たれる理由なのかもしれない・・・。
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