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第1章
12
僕は眠った。
浅い眠りだった。
制服のズボン。シャツのままだった。
髪はぼさぼさなのに反するように、身体はまとわりつくように寝汗がひどかった。
夢は見ていた・・・。
父の夢だった・・・。
優しかった父がいた。
幼い僕は駆け寄った。
かけよって・・・。飛びつく瞬間に父は消えた。
僕はベッドの脇に置いてある目覚まし時計を手にとった。
時間は3時15分だった。帰ってきたのが2時過ぎ。
1時間経っていた。
僕はベッドに寝転がるまま、
ベッドサイドのリモコンでステレオをつける。
ジャジィーなFMが耳に届いた。
少しづつ現実が目を覚ます。
このうやむやを今すぐにでも消し去りたかった。
いや、「うっぱらいたい」といった方がより近い気持ちがする。
だから、このことを早く忘れたくて、 僕は商店街へ向かうことにする。
街を歩くことで、すこしの間。他のことを浮かべられるから・・・だ。
ぱっと、寝汗にぬれた制服のシャツを脱ぎ捨て、ジャケットの袖に腕を通すと、
一人歩いてみることにした。
商店街に着いても、活気と言うほどの人の流れはない。
大都市東京の一部であるこの街には、商店街は似つかわないのだろうか。
この商店街は「大通り商店街」と国道に近いからだろう、そう名づけられている。
駅前に並ぶ商店は商店街をなしていない。
駅前は駅ビル。いわゆるショッピングセンターのビルだ。
だから、駅から少し離れたこの商店街だけがこの地域唯一の商店街になる。
大型スーパーが郊外に建って、ちょっと駅を進めばデパートの群れが集まる。
それでも、この商店街の方が僕には便利に思えたし、愛着があった。
この商店街は雨でも買い物出来るようにと、古びたアーケードがそのまま備わっていた。
僕が物心ついたときには、もうすでにあったから・・・。
少なく見積もっても何十年選手だろう。
けれど、去年の秋口に大改装して取り壊された。
今は雨が降ると店前はてんやわんやになる・・・。
どういう理由で「屋根」をとりはずしたのだろうか?
たぶん老朽化なのだろう・・・。かなり雨のアカで汚れていたから・・・。
それにしても、アーケードをはずしたままで、
もう半年以上も経つということは付けなおさないつもりだろうか?
金額的なことなのか?それとも別の理由でもあるのか?
買い物客にとっても、お店にとっても「大変」ではありそうなのだが・・・。
また、アーケード入り口に掲げられていた大きな看板。
「ようこそ大通り商店街へ
との文字も今はなくなってしまった。
その変わりに、今は変わりにポリ製のアドバルーン。
へんてこ?なキャラクター「ダイちゃん」が、入り口からがお出迎えである。
ちなみに「ダイちゃん」は子供に恐がられてさえいるようだ。
あそこで泣き止まない子を幾度か見かけたぐらいだから・・・。
真っ青な顔をした”たぬき”という、
どういう意図かわからないキャラ設定がそもそもおかしいのに。
目が少し鋭いし・・・
アドバルーンがゆれるたびにその顔が変化するようでより一層恐いものがある。
そりゃ、子供も泣くのが仕方あるまい・・・。と、思うほどだ・・・。
「さて・・・。。。ぅん?」
僕はその「ダイちゃん」のすすけたように汚れ気味のバルーンを横目に商店街を歩いていると、
見覚えのある顔に出くわした。
樫木ユカリ (かしのきゆかり) と小柴あやな (こしばあやな) の仲良しコンビだ。
二人とも今はクラスメイトだが、とにかく良く一緒にいる。
ユカリの家とあやなの家がお互い、この商店街のお店を経営していることもあって、
幼い頃からの友人、幼馴染みだ。
(ユカリのうちは元は「酒やさん」だったが今は「コンビニ」で、あやなの家は「包丁やさん」)
頭の上で髪を結っていて、制服のリボンを緩めている。
そして、肌は透き通るように白いのに、髪の色はブラウンがかっていてバランスがとれないか?
と思いきや、そのブラウン色の色合いが絶妙?なのだろうか?
なぜか?それがとてもよく似合っている。
笑うと「かたえくぼ」がでるのがユカリ。
ユカリとは、高校生になってから知り合った。
高校に入ってから下校途中に出会い「あやな」から紹介された。
彼女は、僕の家からそんなに遠くないので本来なら同じ中学校だろうけれど、
小学校〜中学校までは、遠くの私立に通っていたらしいので、知らなかった。
そして、もう一人。
ストレートな黒髪は肩先に触れるぐらい。
テニスで少しだけ日に焼けた色が健康そうな感じを受ける。
いつも、ぼ〜としたような印象がするのは、瞳のコンタクトのせいだろうか?
でも、その何かを見ている視線は焦点はあっているようで、あっていないようで・・・。
人の話を聞いていないように思われる・・・。
が。しかし。。
ぼ〜としたような言葉や返答も、実は的確なアドバイスだったりする・・・。
また、「スタイルが良くていいなぁ〜」とユカリにうらやまられるのが、あやなだ。
ユカリと僕とは中学校から一緒の学校だが、
一緒のクラスになったのは、中学一年と現在の高校二年生だけになる。
「あっ。星野君!」
ユカリは元気良くこっちに声をあげて大きく手を振って、やがて手招く。
「よぉ。まだ、家帰ってないのか?」
「うん。そ。あやなと遊んでいたから・・・」
ユカリは右手の親指を立てて、あやなに向ける。
「こんにちわ・・・将紀君」
あやなはおっとりとした口調で、会釈する。
「そう、私たちね、これからデザート食べようか?ってはなしてたトコなんだぁ・・・」
「おいおい。今まで何してたんだ?」
「何って。。。駅前でお昼ご飯食べようって行って、エビチリラーメン食べて・・・
それから、駅前ビルで洋服をみて・・・。それから、ゲームセンターでプリクラ撮って・・・
あと。。そうだ。それから・・・文房具屋さんに行ったんだ・・・。
シャーペンの芯がないって・・・それで・・・」
早くて長くて・・・何言っているのか?
ほとんどわからなかったが、そうとう出歩いたことはわかった。
あやなはとなりで、ぼ〜とした視線をユカリに向けつづけている。
「そう・・・それはそれは・・・。アレ?でも、あやなは部活じゃなかったか?」
「はい。でも・・・今日はお休みなんですよ・・・」
「そう?じゃ、ちょうど良かったなぁ?」
「でしょ。じゃ。星野君はデザート何にする?」
「はぁ?オレの話聞いてた?」
「え?何が?だって。。。今ちょうど良かった・・・って言ったでしょ?じゃ、一緒に食べに行こう!」
「・・・・」
あきれて物が言えない・・・。
というか、話がハイテンションでハイスピードでついていくのもやっと・・・。
いや、遅れること必至だ。
僕(他人)の話は半分くらいにしか聞いていないのだろうか?
『ちょうど良かったのは、あやなが部活が無くて・・・と言う意味だ!』と言う気も失せる。
あやなは黙ってにっこりした顔をしている。
「で。じゃぁドコ行くんだ?」
「そうねぇ〜。あやな!どっか、良いとこある?」
ユカリはあやなに視線を向ける。
あやなは、すこし空を見るような仕種で物を考えているらしかったが、
ふと、思いついたらしく、
「・・・仔馬家 (こうまや) さんはどうでしょうか?」
と、意外や素早い答えだった。
「仔馬家かぁ・・・。うん。そこにしよ!」
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