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Sugarpot 書き下ろし
タイトル 「無題」


第10章 ホワイトスノーは時間(とき)をこえて

「わたしが転校するから引越しをしたのは終業式のあった12月25日・・・」
「あの日、浩志(こうじ)君が見送りに着て くれたんだよね・・・いまでも覚えてる・・・」
「『いつか、戻ってきたら又一緒に遊ぼう』って言ってくれて・・・ 嬉しかったんだ・・・」


「・・・」
俺は黙って話を聴いてみることにした。

「引っ越す前の日の12月24日がわたしの誕生日でね」
「学校の帰り道、寄り道して鐘のある丘の公園に いったんだよ・・
  『クリスマスだし、誕生日だろう・・・』って。」
「いい思い出なんだ・・・」
「それでね、そのとき浩志 (こうじ) 君
 『もしも、この南台に戻ってきたらその年のクリスマス一緒に過ごそう・・・』
  って言って・・・」
「時間まで決めたんだよね・・・夜の7時に・・・って・・・」


「・・・」
そういえば、確かにそんな気がする。
確かに一緒に丘の上にある公園へ行った。
でも。そんな約束は思い出せはしなかった。

「そうか・・・そういえばそうだった気がする・・・有紀の誕生日も忘れてたよ・・・クリスマスイヴだったもんな・・・」
「・・・うん。」
「『クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントが一緒にされる・・・』よくいってたよな?」
「・・・うん。そうなの・・・」
有紀は笑顔を浮かべた。
いま、覚えば有紀は昔から笑顔の似合う女の子だった。

「でも。こうしてチョット気が早いけど逢えたんだから。約束は守ってくれたんだよ・・・」
「・・・それはそうだけどまだ1週間も前だぜ」
「・・・そうだね」
歩いているうちに渋谷の駅がすぐそこに見えてきていた。
冬の空気は澄んでいるからか、ネオンがいっそうきらびやかに輝いて見える。

「なぁ。もし有紀がよければ、ホントに逢ってみないか?・・・忘れてたくせに。だけど・・・」
僕はコートの襟がまがって気持ち悪くなっていたのでまっすぐに直した。
「え!?でも、亜季ちゃんがいるでしょ?亜季ちゃんと過ごすんじゃないの?」
有紀は少し口調を強めた。

「・・・うん。まぁ。だけど、せっかくなんかの巡りあわせかも知れない。こんな風に逢えたんだから・・・」


「・・・」

「7時の待ち合わせ。あの丘の公園に。俺はその後亜季とクリスマスを過ごす・・・だったら、いいだろう・・・」
「・・・いいの?」
有紀は半信半疑に伺う。が、こころなしか頬が緩んでみえた。
僕にだけにそう見えただけかも知れなかったが・・・。

「あぁ・・・そうしよう・・・」


俺達は渋谷の駅に着くと人ごみを掻き分けるように歩いた。
井の頭線のホーム・コンコースともにすごい人でごったがえしていた。
が、二人でつり革片手に話しているうち、あっという間に南台駅についていた。

「じゃ、今度は忘れないよ。7時にな!」

「うん。わかった・・・今日はホントにありがとう。じゃぁ、ね」

第10章 終わり

第11章へいく。(第11章も読む)


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