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Sugarpot 書き下ろし
タイトル 「無題」


第4章 アールグレイの誘い

俺たちは窓側のテーブルに座ることになった。
店には背広を着込んだサラリーマンらしき人がカウンターでコーヒーをすすっているのと、
はしっこの席で仕事の話をしている男性が2人居るだけだった。

この店は最寄の南台駅から、歩いて10分ぐらいの場所にあった。
店構えはウエスタン調に統一されていて、おしゃれといえばおしゃれな気もした。
昔、よくこの喫茶店『幌馬車』にはつれられた覚えがある。
親父が無頼のコーヒー党だから、休みの日などは一緒にきていた。
よく、俺はコーヒーゼリーを食べたもんだった。

「ここ、ケーキおいしいんだよ」

この娘は、ここをひいきにしているらしかった。
着くなり、メニューに目を通さなくともケーキセットを頼んでいたから。

「ね。最近。ここに来たことある?」

「いや、あんまり。昔はこの辺に住んでいたからよく来てたけどね。」
「ふ〜ん。冬はコーヒーとか紅茶とかココアとかあったかいのみものが恋しくなるよね?」

此の席からは、すぐ近く下を流れる川が見える。
ここからでもあまりキレイでないことがわかる。
それでも、かわせみがいるらしい。
登下校途中に見かけることがたまにある。
冬の川沿いはいかにも寒く、手もかじかんでくる。
そういった意味で言えば、この店は良いロケーションになる。

「あのさ、ところで話は変わるけど、俺は君とはどういう知り合いだったっけ?」
正直、あんまり長居するつもりはなかった。
とりあえず、どんな知り合いなのか?
それだけは気になったし、気にかかっていたことだから聞きたかったが・・・

「・・・う〜ん。知りたい?」
「うん。まぁ・・・」

その娘は、いたずらっぽく微笑んだ。
「・・・・・・。そうねぇ・・・」

「・・・やっぱり言わないことにする」

「え!?なんで?」
「だって、おぼえていないんでしょう?だったら、覚えておく必要ないんだよ。きっと・・・」


『かっちゃ』
エプロンというよりまえかけをつけた、ポニーテールの女の人が
「すいません。はい。こちらケーキセット2つですね」
と、話しているところにちょうど良いタイミングと言うか悪いタイミングで、
チョコレートケーキとレアチーズケーキ、それに紅茶とホットコーヒーを配んで来た。

「ね。そうでしょう?それに少しでも私のこと覚えていてくれたんなら、
こうして話しているうちにだんだんわかってきて、思い出してくれると思うよ」


「でもさ・・・」
「いいから。いいから。ね。ケーキ食べよ?」
配ばれてきた紅茶はアールグレイ。
香りが漂った。
この娘はレアチーズに紅茶。
俺はアメリカンにチョコレートケーキ。

この娘は、砂糖をポットから2ついれて紅茶に口をつけてから、レアチーズに手をつけた。
「うん。おいしいよ」
俺は砂糖だけ入れたコーヒーを少し口に含むと、すぐ話を続けた。

「・・・。思い出してくる。って、言われても・・・。名前も思い出せないんだぜ」

「・・・。そっか・・・。そうだよね。名前も知らない子でどんな人かも知らない人とお茶をのむなんて変だもんね・・・。」

「・・・」
素直にいえば・・・。もしくは、はたから見れば『おかしく』思われた。
俺はこの娘の何一つも知らないのだから・・・
もしかしたら、この娘がホントは全然知らない子だ。とも知れない。
たとえ、この娘の言うように『知り合い』だったとしても明らかに『ふつう』ではない。

「・・・う〜ん。わかった・・・。じゃあ、こうしようよ。私は『なつみ』。夏の海と書いて『夏海』」

「・・・?」
「ホントの名前は言わないことにする・・・だって、言ったら面白くないし・・・ね?」

「・・・」

なつみ。この娘の名前は『夏海』では無い。
本当の名前はわからない。
俺は本当の名前さえ聞ければ何か思い出すような気がしてイライラしかけたが、

「ま。いいよ。じゃ何か手がかりでも教えてくれないか?何でも良いから・・・」
と、話をすすめたほうが賢明と判断した。

「じゃ。自己紹介しあおうか?わたしからね。」


「わたしのなまえは夏海。趣味は読書。特技は習字かな。一応これでも有段者なんだよ。
あとは・・・あ、下手だけど料理も好きだよ。結構女の子らしい趣味でしょう・・・?」
「あ。そうそう年は君とおんなじ。高校2年の16歳。・・・う〜ん。あとは何を言えばいいのかな?」


夏海と名乗ったこの娘は、趣味とかは本当のことを話したらしかった。
話し方で何となくそう感じるものだ。
自分では謙遜してか、『結構』女の子らしいと『結構』を用いたが、
見た目からして、女の子らしい感じを受ける子だった。

「音楽とかは聴かない?」
「えっ?おんがく・・・?そうだね・・・聴くのはやっぱり・・・流行ってる歌とかだから。そんなにこだわりはないよ。」
「ふ〜ん・・・」

俺はついつい亜季と比べていた。
亜季はハッキリとした好みがあった。
亜季の趣味はテニス。をはじめにスポーツ全般。特技は、そのスポーツだろう。走るのも泳ぐのも得意だ。
音楽の好みは、ポップス。それも本人いわく『かわいいうた』らしい。

「じゃあ。今度は君が教えて・・・」

「えっ。ああ・・・」

「まず名前は・・・風間浩志(こうじ)。南が丘高校の2年。趣味はサッカー。って何か、変な感じだな・・・」
「まぁ。特技ていう特技は無いけど、スポーツはなんでも好きだな・・・。そんなもんだな・・・」

なんだか、やっぱり変な感じだった。

お互い喫茶店で自己紹介をしている。
それでいながら、どこかで逢っているはずの2人なのだから・・・

その後、俺たち2人・・・
夏海と俺は他愛の無い話をして喫茶店を出た。

もう、あたりは暗かった。
風は夜になるといっそう厳しさを増した。
頬は風にさらされ、赤くなっているようだった。

「さむいなぁ・・・ホント」
「うん。」

「もう、だいぶ暗いから家まで送るけど・・・よかったら」
「ううん。いい。一人で帰れるよ。だってさっきの彼女に悪いから・・・」

「見てたのか・・・?」

「う、うん。ずっとじゃないけど・・・」
「そうか・・・」

「ね、ねぇ。」
夏海はかじかむのか、手に少し息を吹きかけて話しを続ける。
「ん?」
「あのね。明日あいてないかな?」
勝手ばかり言っていると思ったのか、すこし申し訳なさそうに俺を見た。

「空いてるけど・・・」
亜季は親戚の家へ行くということで、今週の週末は珍しく暇だった。

「よかったら。渋谷に行きたいの。つきあってくれる?」
「・・・」
「・・・うん。いいけど・・・」


「よかったぁ・・・」

夏海の顔はあきらかにほころんでみえた。

「じゃぁ。何処に何時がいいかな?都合はどう?」

「べつに何でもいいよ。」
何か、新鮮な気持ちが心のどこかにはあった。
それとともに、べつの心の片隅には亜季への弁解や罪悪感があった。

「それじゃ。10時に南台駅の改札でいいかな?」
「あぁ。わかった」
それから、2人は南台駅でわかれた。
夏海のほうが俺を駅まで見送ってくれる形になった。  

第4章 終わり


第5章へいく。(第5章も読む)


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