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タイトル 「無題」
第5章 センター街のホワイトブレス
「おはよう」
夏海は先にきていた。
空は晴れていた。雲すら見あたらない。
俺はベッドに転がってからなんとなく眠りにつけなかったが、朝は意外とスッキリ目覚めていた。
「はやいな。まだ10時前だぜ・・・」
「うん。さ、いこう」
「昨日は眠れた?わたしはあんまり寝れなかったんだ・・・」
夏海はふわふわとした白いコートをかけて、ごく淡いクリーム色のニットセーターにロングスカート。
マフラーを前からスッとかるくかけて、足元は茶色いブーツと、可愛らしく今らしいかっこうだった。
「うん。なんだか。俺も寝れなかったよ・・・」
「亜季ちゃんに遠慮して?」
「えっ!?」
確かに亜季には多少なりとも罪悪感に近いものは感じていた。
それを夏海に感じられていた。
そのことにもおどろいたが・・・
「なんで、亜季のこと知ってんだ・・・亜季って名前?」
「なんでって。昨日そう呼んでたよ。亜季ちゃんが帰ろうとしたとき・・・『亜季!』って」
「・・・なんだ。そっか・・・」
俺はやはり動揺していた。
日頃、ちょっとしたことで亜季に問い質されてたせいもあったろう。
デートと言うか、休みの日にこうして亜季以外の女の子と会っているだけで緊張した。
勿論、ほかにも理由はあったかもしれないが・・・
電車を乗り継いで、渋谷の駅についた頃には11時近くになっていた。
休みの日なのに・・・いや、休みだからか、もう人で賑わっている。
夏海は例のガラス窓の並ぶ渡り廊下から街を見下ろした。
「なんか、すごい人だね・・・?」
「まったくな・・・。・・・ところで何処へ行くんだ?」
「うん?とくに決めてないよ。どこか行きたいところある?君が決めていいよ」
「なんだよ、きめてないのか?」
渋谷の場合、ある程度何処へ行くか決めておかないと人がすごいから大変だ。
この前に亜季と来たときなんかグルグル回ったのだが、『人疲れした』と亜季は言っていた。
人に酔うほど・・・、大げさに言うならそれぐらいの人が行き交う街だからだ。
「俺が決めていいんなら、あそびになるけどいいのか?」
「うん。いいよ」
「よし。じゃ。あそびにいくか?!」
109の脇をすり抜けて、渋谷センター街へと向かうことにした。
ビルとビルの間を抜ける。
センター街はいつでも人が行き交う。
大きな靴屋・大きな電気屋・チョット前に大流行だったプリクラの店・パチンコや・ファーストフード。
そして、ゲームセンターに、違法なのではないか?と思われる屋台。
胡散臭さといかがわしさ・・・。
そこにこんなにも多くの若者。
センター街は何時の日もこのままになっていくのだろうか・・・
「すごい・・・ね。ホント渋谷って・・・」
「あぁ・・・センター街はとくにな・・・」
「ね。あそこは何?人がいっぱい入っていくけど・・・」
夏海は少しきょろきょろしていた。
「あぁ、あそこはCDや。レコードやだよ。・・・そうだ、ちょっと寄ってもいいかな?」
「うん」
CDや。といってもビルの中。5階建てのビルすべてCDで埋まってる。
店内はいま日本でブームのR&Bがかかっている。
どうやら、そのイントネーションは海外のアーティストらしかった。
「ね。何か探してるの?」
夏海の頬はきらびやかな店内ネオンに染められている。
「ま、まぁそんなとこかな」
実は亜季に頼まれたCDが一枚あった。
一緒に地元のCDショップを巡ったが何処にもなかったのだ。
俺は店内案内図を見て売り場を確認すると、エスカレータに乗って3階で降りた。
「何っていうの探してるの?」
「ラヴラブっていうバンドでタイトルも一緒のアルバムなんだけど・・・」
「ふ〜ん・・・」
暫くすると夏海が手招きして呼んでいた。
「これ。違う?」
夏海は片手にCDを持っていた。
「どれ・・・」
それは確かに『ラヴラブ』のものだった。
背表紙も表表紙にもハッキリ書いてあった。
「そう。これだ!ありがとう・・・よくわかったなぁ。すぐに探すなんて・・・」
「うん。実はわたし、このCD持ってるんだ・・・だから・・・」
「どおりで・・・なるほどね」
「これ、浩志(こうじ)君が聴くの?」
夏海は左手でCDを指すようにした。
「え!?・・・いや、実は亜季に頼まれててさ・・・」
「そう?やっぱり・・・」
俺と夏海はカウンターのあるほうへ歩きながらはなした。
「だって、浩志(こうじ)君が聴きそうではないから・・・女の子っぽい歌だもんね・・・」
「さて、このあとどうしようかぁ・・・?」
俺たちはその後、ファーストフード・プリクラ・ハンズ・ゲームセンター・喫茶店へと向かった。
もう、目の前にはそれぞれの注文したものが小さなテーブルの上に置かれている。
紅茶の香りがあたたかみを増す。
外からやってきた者に安らぎと確かなぬくもりを与える。
夏海は紅茶に口付けるとホッと息をついた。
「うん。そうだなぁ・・・」
店内はクラシック(たぶんモーツアルトだろう)がゆるやかな時間作りを演出している。
木材に統一感を持たせたつくりからは清潔感とやさしさを思わせられた。
「ね。もしよかったら・・・でいいんだけどプラネタリウムに行かない?」
俺は映画でもみようか?とも考えたが、夏海の提案を聞いてそれがいいと思った。
「あぁ。いいよ・・・」
「・・・うん。じゃ、そうしよう?」
夏海は顔をほころばせた。
何となくそれが俺には安堵の表れに見えた。
「プラネタリウムか・・・久しぶりだな・・・夏海は?」
「え!?わ、わたし・・・?わたしもひさしぶり・・・」
「そっか、そうだよな。なかなか行く機会ってないのかもな、プラネタリウムって・・・」
今日たった一日、夏海とすごしただけなのにどんどん2人の間が埋められていく気がした。
間っていうのは時間なのかもしれないし、単なる仲なのかもしれない。
だけど、昨日再会して・出会って、打ち解けるのには時間が要らなかった。
ハッキリいって、俺と夏海は趣味が合う感じはなかった。
夏海はゲーセンにはあまり行かないらしいし・・・音楽の趣味やファストフードで頼んだものも・・・
それでも何故か。夏海といると面白かった・・・
それは決して亜季といるときとも異なる感じだった。
亜季と一緒のときも楽しかった。
亜季はイタメシ好きで、俺は和食党。そんな風に趣味が違っても付き合ってきた。楽しかった。
でも、夏海と亜季の感じとは違う。
「うん。あんまり行くチャンスないよね?」
夏海は振り返って窓から街を見下ろした。
髪先からほのかないいにおいがした。
「なんか、今日は俺の良いように歩きまわらしちゃったな・・・」
「ううん。そんなことないよ。とってもおもしろかったよ」
夏海は気をつかってかほほえみを返すためにわざわざ振り向き返した。
「そうか・・・なら、いいんだけど・・・」
きっと、だれかから見たらカップルに見られるだろう。
違和感などない。と思う。
亜季なんかに見られたら、いっかんの終わり。
「もう、顔も見たくない」なんて言われるだろう・・・
それくらい、違和感が感じられない。
「・・・わたしから誘ったんだよね・・・ホント面白(たのし)かったよ・・・」
第5章 終わり
第6章へいく。(第6章も読む)
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