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タイトル 「無題」
第6章 ふたたびスクランブル
そして、俺たちは身体が暖まったころ喫茶店を後にした。
外はさっきより風が強くなっていた。
夏海のあわいピンク色のマフラーがゆれる。
「ねぇ。ほら・・・あれ」
夏海の指差したほうを向くとそこには大きなもみの木があった。
色とりどりのランプを身体に巻きつけられたもみの木はクリスマスを呼ぶ。
「夜になるとランプが灯くんだね・・・」
まだ、日差しは傾けたばかりで暗くなるには少し時間があった。
「ああ。そう言えば・・・道玄坂の方にもあったような?」
「うん。しってるよ。並木道がぜんぶ灯るんだよね・・・?」
「帰りにはきっとついてるかもな・・・」
センター街に飾られたもみの木を後にすると、もう駅が見えてきた。
「ねぇ。ひさしぶりに此処であったんだよね?」
夏海はスクランブル交差点の信号待ちに話した。
「ああ・・・」
四方八方ビルに囲まれたスクランブル交差点。
そのビル一つ一つに大きな看板が取り付けられてある。
ざわめく人声は夜の夜まで続けられる街。
「でもね。本当はその前にも一度あったんだよ。ひさしぶりに・・・」
「えっ!?」
「うん。・・・あっ。ほら、信号青になったよ・・・」
いっせいに信号待ちの人が色々な方向から様々な方角に歩き出した。
「いつ?どこで?」
「えっ。・・・アクアブルー・・・プール。夏の・・・」
「・・・ふ〜ん。そうか・・・おぼえてないなぁ・・・」
色々な方からやってくる人にあたらないように気をつけながら歩いた。
「おぼえてないよね・・・そんな前のことなんて・・・」
「えっ。ああ・・・でも、ここのことはまだ良く覚えているぜ・・・」
夏海は人ごみに紛れて歩いているせいか、さっきよりも肩を近づけていた。
「あのとき、亜季と一緒にいて・・・それで夏海が前から歩いてきたんだったよな・・・」
「それで、『ひさしぶり』って、わたしが言ったんだよ・・・」
「あぁ、そうだった。それで俺は『えっ』と思って振り返ったんどけど、もういなかった」
俺がそう言って夏海を見ると頷いてこっちに目線を合わせた。
ゆっくりしかすすめなかったが、信号が点滅する頃にはなんとか渡りきれていた。
だが、ハチコウ口は人に埋め尽くされていたので、迂回するようにガード下を通ることにした。
「しかし・・・不思議だな・・・何か夏海といて違和感がないんだよ・・・」
「えっ?」
「なんかさ、ホント。ずっと一緒だったようにさ・・・」
「そう・・・?わたしも・・・そうなんだぁ・・・」
不思議でならなかった。
夏海と名乗ったこの女の子とこうしてデートまがい、デートらしきことをしていること。
それも、なぜか違和感なく一緒にあそんでいること。
どうしてか夏海には雰囲気と言うか、空気が合った。
「ね。亜季ちゃんって・・・彼女なんでしょ・・・?」
「えっ!?うん。まぁそうだけど・・・言わなかった・・・?」
「亜季ちゃんって・・・どんな子?この前チョット見かけただけだけど・・・」
夏海にからかうようすはなかった。
「・・・う〜ん。まぁ・・・結構面白いかな・・・一緒にいて・・・」
「・・・そう?」
俺はCDを持った右手に目をやった。
「わたしと似てる?」
「・・・どうかなぁ。亜季は夏海ほど女の子ぽくないからなぁ・・・」
「そんなことないと思うよ」
「・・・でも、どうだろ。似てなくもないかもな・・・今日一日だけじゃ何とも言えないけど・・・」
ガード下を抜けるともうすぐそこになる。
ぱっと右斜め前のビルを見上げた。
そこには・・・銀座線のホームの向こうには・・・
チャンと半円形のドームらしきかげがビルの屋上にあった。
何となく、嬉しくなった。
昔からあった光景がなくなるのを知っている。
でも、今はまだあった。
「あっ。ほら、あそこ・・・よかったな、まだあるみたいだ!」
俺はこみ上がる思いのままに夏海へ声かけた。
「ほんとだぁ・・・」
東急のビルの上。
銀色に染められたドームは傾きかけた日差しを全身に浴びている。
雨、風に打ちつけられた身体は少し剥がれているのがここからでもわかった。
すこし、昔の思いが頭をよぎる。
どきどきしながら見たプラネタリウムの世界。
時が経ってもあのままのかたちで俺たちを迎えている。
そう思うと気持ちが早まっていくようだった。
第6章 終わり
第7章へいく。(第7章も読む)
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