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タイトル 「無題」
第7章 プラネタリウム・・・
最上階の上。
屋上には半円形のドームがある。
それを確認するとエレべータに乗り込んで一番上のRのボタンを押した。
が、階数を示すランプの上の案内表示を読むと実はRFでなく、その一つしたの階だった。
俺は押しなおすとテレ笑いを夏海に向けた。
あいにく、乗り合わせた他のお客さんの手前も合ったからだ。
プラネタリウムを擁する東急ビルもそれなりの年季の建物になった。
各階には古きよきデパートメントストアのかおりがする。
そして、このエレベータも例をはずさない。
動き出す瞬間、ギシッときしむ音がする。
「ついたな・・・」
降り立つともう目の前がプラネタリウムの前になった。
赤いじゅうたんが敷き詰められたフロアーはまるで映画館のように見えた。
その重重しい両開きの扉といい、西洋アンティーク風の扉の取っ手。
かすかに流れ、耳障りにならぬクラシック。
そのすべてが演出する。
「ほら、あっちだよ・・・チケット売り場・・・」
「・・・」
チケット売り場らしき場所には誰もいなかった。
それもそのはず、今はちょうど谷間らしい。
『次の開場は16時ちょうどです』というプラカードがぶら下がっていた。
「なんだよ、ちょうど駄目みたいだな・・・」
「うん。あと20分以上もあるけど・・・」
「ま。せっかくだ。待とうか・・・それまで屋上でゲームでもしてよう・・・」
そして、屋上で暇をつぶして20分が過ぎたころ・・・
「お待たせしました・・・開場しますので皆様ご自由にお席の方へ・・・」
という、店員さんの声に導かれるまま、俺たちはチケットを手に、真中より少し後方の席に座ることにした。
「ねぇ、やっぱりあんまりいないね?お客さん・・・」
「あぁ」
ここには数組のカップルと親子連れがいるだけのようだった。
だから、それぞれ離れ離れで見あげていた。
それでも、なぜかひそひそ声になった。
「なぁ。どうしてプラネタリウムにいこうっておもったんだ?」
「・・・うん。わたしね。小学校のころプラネタリウムにきたことがあって、そのときのことがすごいいい思い出なの・・・」
「ふ〜ん」
ひそひそと話すうちにだんだんと顔が近づいていく。
「そのときはね、お友達何人かで来たんだけど。こうして二人きりでプラネタリウムなんてはじめて・・・」
「おれもだよ。実はさ、気にかけてたんだ。何かここ取り壊されるって聞いたから・・・」
「いよいよはじまるんだね・・・」
夏海は首を座席にもたれて宇宙を見上げる。
「あぁ・・・」
すると、うっすらと灯っていた明かりも消えていった。
「みなさま、本日のご来場誠にありがとうございます。これからみなさまを宇宙の道へと・・・」
いかにもテープを再生しただけの女性の声が館内にこだまする。
「星の明かりは何万光年のときを超えて、現在(いま)わたし達の目に届いているのです・・・」
ほんものの明かりでない。
けれども、たしかに星に見える。
曇っていても、昼間でも・・・お構いなし。
はじめて、プラネタリウムにやってきたとき本当の星だと思った。
けれども、あれはただの明かりだ。と何時の間にか当たり前のように知っていた。
「もしかすると、今みなさんが見ている星はもうないのかも知れない・・・そう思うと・・・」
夏海はだまって見入っていた。
案内テープにもキチンと耳を傾けているようだった。
俺の方は何となしに見あげ、テープも何となく耳にはしていた・・・
「銀河はその名の由来が色々あります。天の川・・・もそのひとつです。七夕の日・・・」
俺は昔読んだ『銀河鉄道の夜』を思い出していた。
あれはたしか・・・天の川は何と喩えられますか?という先生の質問にジョバンニが答えられないとこから始まる。
「また、天の川はミルクにも喩えられ、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも紹介されています・・・」
ミルクをこぼしたように・・・
でも、それにしてはキレイすぎると今でも思う・・・
「柄杓のかたちをなす星のむれが見えてきました。冬を代表する『北斗七星』がこれです・・・」
その後、テープのお姉さんは説明をしてくれた。
まぁ、30分もかかっていないだろう。
あっという間に宇宙のたび銀河の旅を終えて、現実の世界に明かりを灯される。
「あぁ・・・」
俺は肩・首がかたく辛くなったので、ひとつ背伸びをして夏海を見た。
「夏海・・・行こうか・・・?」
「・・・!?」
すると、なんと隣の席はカラッポだった。
「な、・・・なつみ?」
夏海がいない。
さっきまでいた夏海はいない。
焦った。
なぜだか急に焦って、周りを見渡す。
でも見つからない。
確かに、ついさっきまで隣で見ていたのは夏海だった。
俺はあたりをぐるりともう一回見回したがいなかった。
こうなると、人間は不思議なもので焦りが不安に変わる。
まるで、急にひとりぼっち宇宙においていかれたように・・・
プラネタリウムを飛び出すように出ると下の階の方で留まっているエレベータも使わず階段を駈けた。
東急ビルを出て、渋谷駅のほうに走り出していた。
本当の名前も知らない彼女を追いかけて・・・。
もう、日は翳り夜が近づいていた。
傾いた日差しは駅ビルの東急百貨店を背中から染めていた。
バスターミナルを越えとにかく行き交う人、行き過ぎる人、そして背中を追いかけた。
当てなんてなかった。
今日会ったばかりだった。
さっきまで一日でこんなにも近づいた気がしていたのに・・・
もう、そんな思いなど無くなっていた。
「何処にいったんだ?」
不思議なまでに焦っていた。
名前も住所も何もかも知らない子を懸命に追いかけてる自分。
そんな俺がなぜ焦っているのかまったくわからない・・・
ただ、胸のどこかでこのままではもう二度と逢えない気がしていたのは感じていた。
その想いが俺を走らせていた。
いつか走りつかれ、少し立ち止まるとそこはハチコウ口の改札前だった。
ひきりなしに行き交う人の流れの中で願うように夏海を目は追いかけている。
キョロキョロとしながら絶え絶えのいきをすこし整えながら歩いた。
第7章 終わり
第8章へいく。(第8章も読む)
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