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Sugarpot 書き下ろし
タイトル 「無題」


第8章 みたびスクランブルへ

脇腹がギシリギシリと痛む。
むねがぜいぜいと息をあげる。
あきらめはなかった。
ただ、心のどこかからささやきが聴こえた。
『もう、あえないかも?』

脇腹がギシリギシリと痛む。
むねがぜいぜいと息をあげる。
『もうこれで逢えなければ二度と逢えない』これには不思議と確信を持っていた。


『夏海・・・』

俺は今日来た道を遡ってみることにした。
何の手がかりの無い今。歩くことで少しでもモヤモヤや焦りを消したかったのかもしれない。
夕時のスクランブル交差点はカップルや友だちであふれ返っていた。
気の早いクリスマスプレゼント抱えているようにもみえた。

信号が青になる。
その瞬間、何かがよぎる。
そう、あの秋の瞬間。

「ひさしぶり・・・」
そういわれたあの時。
いっせいに渡る人波に色々な思いが交錯する。
目で追うが、夏海は見当たらない。

それでも。
『なんとなく、此処なら出会える・・・』
なぜか、此処で再会できる。そんな気がしていた。

懸命にながめる。
白いコートを着た女の子。
夏海と名乗った女の子。

もう、信号は点滅していた。
そして、渡りきっていた。
急に背中が寒さを感じた。
走った汗が冷えたからか、それとも別か・・・

『もう、駄目か・・・』
109の方へ足を向けたがその足取りが一段と重く感じた。

その瞬間だった。

「・・・」
俺の顔は手でふさがれた。

「だ〜れだ?」
俺はすぐに手を振り払うと振り返ってその顔を見た。

「夏海・・・」
俺はその顔を見てホッとした。

けれどすぐに違う感情が込みあがってきた。
「探したんだぜ・・・」
「ごめんなさい・・・」

「・・・どこいってたんだ?」
「・・・」

「・・・ま、いいか・・・結構心配したんだぜ・・・」
俺たちは人の流れと逆に神泉の方へ道玄坂を歩き始めた。
明かりの灯ったなみ木がキレイに街を色づけて、街行くカップルは手をつないでいる。

「・・・どうしたかと思った・・・急にいないから焦ったよ・・・」

「・・・うん。実は携帯電話電源入れたままプラネタリウムにいて・・・」
「そうしたら電話がかかってきちゃって・・・あわてて、外にでて訳を話して切って戻ったら・・・
 もう終わってて・・・浩志くん、もう席にいなくて・・・」
「すぐ追いかけたんだけど・・・ごめんなさい・・・」


「・・・だったら、そう言えばよかったのに・・・電話が来たって・・・」
「・・・ま、もう終わったことはいいよ・・・」


「ホントにごめんなさい・・・」

夜になって寒さが増す。
吐く息は真っ白くなってキラキラひかって消える。
「キレイ・・・だね」
夏海は街路樹に目を向けた。
「・・・そうだな・・・」

「俺さ。夏海がいなくなったって思ったとき考えたんだけど、焦ったって言っただろう?」
「うん」

うすいオレンジいろのやさしい色の電球に飾られた坂はなだらかというよりもきつい坂に数えられた。

「そりゃあ。名前も知らないんだから当てがないって・・・そう思ったんだ・・・」
「・・・」

白い吐息がオレンジ色に照られてきれいな空気をみせる。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかな・・・本当の名前・・・」と言うと、
夏海はふと夜空に目を向けた。

「・・・ねぇ。浩志(こうじ)君は『ホントにわたしと知り合いだ』と思う?」
「どういうこと?」
「わたしと浩志(こうじ)君は昔から友だちだったと思う?」
夏海は視線を俺にかえると続けて話した。

「・・・例えば、『わたしが全然見知らぬ人で昨日急に知り合いになった・・・』とか」
「・・・わからないな。でも夏海がそう言うなら、今はそれで良い・・・」
俺はコートのポッケに右手を突っ込んだ。

「・・・わたしの名前もホントに覚えていないんだね?」

「・・・」
少しうつむいたように見えた。
夏海は白い溜息を手に吹きかけている。

「・・・わたしの名前はゆき・・・宮川有紀・・・あるっていう字に21世紀とかの世紀の紀・・・」
「・・・ゆき・・・?」


俺は一瞬、頭の中は?が巡ったが、その名前を聞いて思い出した。
よく。夏海の顔をみているうちに一人の『ゆき』を完全に思い出した。

彼女は俺の友だちだった。

宮川ゆき・・・この字の方が近いかもしれない・・・
苗字は漢字、名前はひらがなのつづり。
そんな時期のことだから、たぶん小学3年か4年ぐらい。
ゆきは俺と同じ小学校に通っていた。
ゆきはある日、南台(みなみだい)に引っ越してきて、うちの左斜め前のマンションにやってきた。

そして、1年も経ったかどうかのある日、引っ越していった。
だから、そのわずかな時しか友だちらしい時間は無かった。

第8章 終わり


第9章へいく。(第9章も読む)


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