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Sugarpot 書き下ろし
タイトル 「無題」


第9章 ミルクティー

「そっか、ゆきだったのか・・・」

顔をよくよく見るようにした。
確かに言われてみれば、面影はある。
瞳のしたのところがぷっくりした感じなんかには・・・

でも、ハッキリいって『ゆき』って言われないとわからない。
もう、大人への階段を歩んでいるのだから・・・
あの小学生のころ笑っていたゆきのままで。僕の記憶は止まったままだったのだから。



「どう?変わった?」
あの頃はショートカットだった髪先は肩先でゆれている。

「・・・どうかなぁ・・・まだわかんないよ。昨日の今日だから・・・ま。でもビックリしたよ・・・」
「・・・浩志(こうじ)君は変わらないね・・・わたしひさしぶりに逢った時・・・すぐわかったから・・・」
夏海あらため「ゆき」は目をみるようにして微笑んだ。

「・・・でも、なんで名前を隠したりしたんだ・・・?だったら言ってくれれば・・・」
「・・・」
有紀は言いにくそうに少しうつむき加減にした。

「・・・やくそく・・・」
「え!?」
「・・・覚えてないよね・・・?」

俺はコートの手を少し頬に当てた。

「・・・」

何時の間にか街路樹のあかりとともに街路灯が燈っていた。
濃いオレンジ色のランプはやさしさをこうこうと照らす。
すこし、黙った空気が漂う。
冷えた空気は頬を擦るように強張らせる。


「・・・わたしね。この今年の春に引っ越してきたばかりなの・・・南台の近くに・・・」
有紀はうつむき加減だった顔を逆に空に向けて、話を進めていく。
「・・・お父さんの仕事の転勤で今でもいろんな場所に住んできたんだけどね・・・」
「今度は東京に行くって言うから、『じゃあ。南台のほうにしようよ!』ってことになって・・・」
「そうしたら、夏休みに浩志(こうじ)君がプールにいるのを見たの。『あ。浩志(こうじ)君だ!』って・・・」


「なんだよ、だったらすぐにそう言ってくれればいいのに・・・」
「でも、そのとき亜季ちゃんがいたから・・・『悪いかなぁ』と思ったから・・・」
「・・・そうだったのか。ぜんぜん覚えてないなぁ・・・」

俺たちは並木道を折り返すように回った。
すると、すぐに大きなゲーセンの入り口に備え付けの自動販売機が見えたのであったかいコーヒーを買った。
勿論、有紀にもちっこい缶のミルクティーをやった。

さっき、喫茶店ではストレートだったから敢えてミルク入りにしてみた。
まぁ、カイロの代わりにでもなればいいという思いからだ。


「逢いにいったんだよ・・・あのころわたし達が住んでたところに」
「そうしたら、浩志(こうじ)君引っ越していていなかった・・・」

「あぁ。俺もあの後引っ越したんだ。中2んとき。隣町だけど。」

渋谷は夕暮れ時から夜に切り替わっていた。
ネオンがあちこちで燈り、だんだんと鮮やかに浮かび上がってくる。


「・・・そっか。でも、有紀だったとはな・・・」

「・・・」
二人はあったかい缶を手にもったまま、飲まずに指先をあたためた。

「・・・いや・・・今日一日一緒にいて、何か違和感が無かったのもそれなら不思議じゃないのかもな・・・」
とりたてて、ゆきと仲良かったわけではない。
ま、その頃は付き合うとか知らずに・・・好き嫌いっていうのがもっと純粋だったから単純に好きだったと思う。
それもそうだ。当時小学校三年生ではそんな感情がわかるわけない。
すくなくとも、あのころの僕は・・・

だけど、家が近かったせいもあるし、
同じクラスだったから、隣の席になったことが何度かあって、よく話はしていた。
それに、何故かわからないけれどゆきと一緒にいるとそのころから何となく普段の俺でいれた。
というか、僕らしい僕。
変にテンションがあがったり低くなったりしない・・・まるで自分の部屋にいる感覚。
それが一番近かった感想。
だから、夏海が有紀だと聞いたとき、この一日の心地いい感覚が納得できた。


「ね。もうすぐ、クリスマスだよね?」

「・・・あぁ・・・」

「覚えてないかなぁ・・・」
有紀は街灯のランプをみあげて呟いた。
「おぼえてないよねぇ・・・?もうずっとまえのことだもんね・・・」

「・・・なんのことだ?」
「やくそく・・・」

「約束?」
俺には思い当たる節は無い。
何しろ、いまさっきまで顔を見ていながら、有紀のことさえ思い出せなかったぐらいなのだから・・・


「うん。やくそく・・・やくそくしたんだよ・・・」
「なにを?」
「・・・覚えてないみたいだから、言わない・・・」

「・・・」
約束がなんなのか?何時約束したのか?何もわからない。
だけど、話の繋がりからいってどうやらクリスマスのことに思えた。


「・・・それって。クリスマスとなんか関係ある?」
「えっ!?うん・・・なにか思い出したの?」
「・・・いや、何となくそうかなって・・・」
「・・・そう・・・おぼえていないよね・・・実はね・・・逢いたかったんだよ、ずっと・・・」

第9章 終わり
第10章へいく。(第10章も読む)


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