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Sugarpot 書き下ろし
手品師の粉雪

第3章

 1

次の日。僕は「かすみのくれた紙片」を持って、その住所を尋ねてみることにした。
僕はわずかな期待。大きな希望を胸に抱いていた。

天気は曇天だった。
春が近いのに・・・。空はグレーに染まっていた。

住所の場所までは、僕のアパートから電車で1つの駅、そして歩いて10分。
あっという間についた。
僕の目の前には、「樫山」と表札のかかった一軒家がある。

本当に・・・。本当に「羽衣 (うい) 」はここにいるのだろうか・・・。
もう一度、彼女の笑顔にあいたい。
僕はそう思うと、自然と呼びだしのブザーを押していた。


「は〜い」
「あの・・・すいません。」

『がちゃり』
ドアが開く。
中から人が出てきた。

「!?」
羽衣。羽衣だった。

羽衣だ。とすぐわかる。 当時は制服姿と、カジュアルな服装ばかり見てきたが・・・。
うすいブルーのカーディガンをふんわりと羽織って、
すこしブラウンがかったショートカットになっているものの・・・。
すぐにその顔でわかった。

「草太くん!?」

羽衣は驚いたように、すこしのけぞる。
僕は、黙って頷くだけだった。
いままで、会いたくとも会えなかった羽衣がそこにいる。
なのに。。言葉が出てこない・・・・。

「どうして。。どうして。。ここがわかったの・・・?」
「かすみと裕子が調べてくれたんだ・・・」

「ねぇ。草太くん・・・中に入って・・・」



羽衣の家は大きかった。
豪華ないけばなが玄関先にある。
通された部屋は「居間」とうよりも「応接室」に近い印象を受けた。
革のソファーがゆったりと配置され、TVは大きなプラズマ液晶があう。

羽衣は部屋に僕を通すと、部屋から出て行き「キッチン」からお茶とお菓子を用意してくれる。
どこかから漂う香ばしい紅茶のかおり。
午後のティータイム。
午後の日差しはやわらかくそそいでいる。

羽衣はポットとカップ・ソーサーの一式。
それにお菓子の入ったバスケットをもって戻ってくると、
ゆったりとしたソファーにちょこんと腰掛ける。

「会いたかった・・・ずっと・・・」
羽衣は紅茶をカップに注ぎながら、独り言のように話し掛けた。

「わたし。あれから何度も草太くんに電話しよう!って思ったんだけど・・・
 いつも。受話器を持ったときに・・・緊張して・・・電話できなかった・・・」


羽衣の声はかわることなく、かわいい声だ。
彼女の声がとてもすきだった。
甘すぎない。けれど・・・。とてもかわいい声。
なつかしい・・・。

紅茶のかおりが部屋を包む。
やさしいかおり。
砂糖が溶けていく。

「・・・草太くん元気だった・・・?」
「あぁ・・・元気だったよ・・・」

「今。どうしてるの・・・?手品師になるの・・・?今も、北雪町にいるの・・・?」
「よく覚えているなぁ・・・。手品師になりたい!っていう夢は今でもかわらないよ・・・。」
「だから。今は上京してこの近くに住んで、師匠についてるんだ・・・。」


「そうなんだ・・・。すごいね・・・」
「いや。ぜんぜん。すごくなんかないよ。弟子なんだから・・・」
「それに。いちおう。親には大学生で通しているんだ・・・。まじめに行ってないけど・・・」

「・・・そうなんだぁ」

「羽衣は・・・?」

「私は・・・本屋さんでアルバイトしてるの・・・」
「へぇ・・。羽衣って本好きだったもんな・・・?よく図書室に来てたもんな」
「うん。。好きだよ。」

ティーカップを握るその指。
あの頃とかわらない、繊細な印象を受ける。
微笑む笑顔もかわらない。
やさしげで・・・。やさしすぎて壊れそうな・・・。そんな微笑み。

 2

「なぁ。どうして・・・どうして、急に北雪町を出て行ったんだ?」

僕は羽衣の目をまっすぐに見て話した。
まっすぐに羽衣の目を見て話したかった。

ずっと、羽衣にあったら聞きたかった。
いや、どうしても会って聞きたかった。
僕の胸の中の空白。
それを埋めるため・・・。それだけでなくて・・・。

「・・・。うん・・・。」

紅茶のかおり。
沸き立つ湯気のあたたかさ。
少し、間を空けて・・・。羽衣はゆっくりと視線を天井に向けて・・・。
それから、言葉を選ぶようにして話を始めた。

「あの・・・」
「あの北雪町には、私。小学校6年生の冬に引っ越したの・・・。」
「それはね・・・。私のお母さんの病気が治るって思ったから・・・。」
「おかあさんは、ずっと。私が生まれる前からその病気だったんだけど・・・」
「私が生まれてからは、もっと。悪くなっていったの・・・」

羽衣は、ゆっくりと話かけるように。ゆっくりと話す。

「だから、北雪町の有名なお医者さんにかかるために行った。。」
「でも、でもね・・・。」

羽衣は視線をずっと上に向けたままだった。
僕はあえて、口を挟まない。

「おかあさんの病気は治らなかった・・・」
「私は、ずっとおかあさんの傍にいたかった・・・」
「だから。出来る限りのことはしたかったから・・・いっぱいいっぱいお手伝いもしたよ・・・」
「でも。それでも。・・・。」


羽衣は少し微笑むように視線を戻す。
悲しみを堪えようと努めている。
その口元の薄いピンク色のリップがいじらしく見せる。
僕はただ黙って、ただ。まっすぐに見つめた。

「あの冬の朝。雪の舞う日だった。おかあさんは・・・いなくなっちゃった・・・」
「・・・それから・・・お父さんは東京に戻ろうって。」
「みんなにあいさつしなきゃいけなかったのに。。。私はしないでこっちに戻った・・・」
「だから、何度も本当に電話しなくちゃ!って思った」
「なのに。。できなかった・・・」


「羽衣・・・」

僕は胸がいっぱいになった。
羽衣のお母さんには何度か会ったことがあった。
とても、落ち着いた女性だった。そんな記憶がある。
そして、羽衣にも「そんなことを一切」感じ取れなかった。
ごく自然に。何も不安など無い。そんな女の子に見えた。

羽衣はすこし、こらえるように天井を見上げる。
それでも、羽衣は涙を見せないように・・・。
微笑む。まるで弱さを見抜かれないようにしているように・・・。

そんな羽衣がとてもいとおしかった。
健気な羽衣が懐かしかった。
あの頃の羽衣も好きだったけれど・・・。
もっと。もっと。羽衣のことがいとおしく思えた。

「羽衣・・・」

「俺は羽衣がいなくなって、本当に残念だった・・・」
「羽衣と卒業式に出る。そして、これからもずっと一緒にいられるって思っていたから。」
「でも、羽衣は。何も言わないでお別れなんてするようなヤツじゃないって・・・」
「だから。心配もした・・・。」
「何があったんだろう? って・・・」
「かすみも凄く心配してた・・・」


僕は羽衣の瞳を見て話す。
羽衣はずっと上を見ている。 口をぎゅっと結ぶ。

「今、初めて羽衣から話しをきいて・・・」
「そんな悲しいことがあったなんて。知らなかった。。。」
「羽衣はそんなそぶりを全く見せなかったから・・・」
「だけど。もしも、今度は何があっても、話して欲しい・・・」
「俺なんかじゃ、何も出来ないだろうけど・・・」
「 でも。人に話せば少しはやさしくなれる。と思うから・・・」

羽衣は涙を堪えて、僕の方を向いた。
瞳にたまった涙が透き通るまなざしをかすませる。
そして、ゆっくりと頷く。

「うん・・・。ありがとう・・・」


次へ。

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