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Sugarpot 書き下ろし
「待ち人のいる改札」




彼女は、待っている。

何も変化の無い駅改札。
過ぎ行く人の波。
時々、彼女を見ては通り過ぎ行く人。

彼女は新宿方面に向かう電車がとまるたび。
そこからやってくる人波みが来るたび。
期待をして待つ。
この電車で降り立つかもしれないと。。彼を待つ。

降り立つ人。
降り立つ人の姿を追いかける。
彼のシルエットを追いかけている。

今、ついた電車にも彼がいないことを知ると。。
彼女はまた、柱に寄りかかる。


近年には無いほどの暖冬。
なのに、今日は寒く思う。

本当に気温が低いのか?
それとも、自分だけがそう感じるのか?
どちらかわからないけれど・・・。
彼女は、じっと柱に寄りかかっている。


時間はどんどん過ぎていく。
時計の針ばかりが過ぎていく。

腕時計を見て、
携帯電話を見て、
ひとつ。またひとつ。。時が進む。

時計の針は待ち始めてから。。
もう、1時間30分が経つ。




「良しっ!」

彼はやっと仕事を終える。

疲労感は無い。
達成感も無い。
開放感でも無い。
あるのは、焦燥感だろうか。。

彼は、カバンを持つと勢いそのまま駅に駆け出す。

いつものビルの警備員に挨拶を交わす。
「メリークリスマス」の声が警備員室のTVから流れる。

ビルの自動扉をせかすようにして開け、
彼は駅までその勢いで走り出す。

そして今日、久々に感じた外気に寒さを感じる。
自分を待つ人の身を案じる。

「夕方に差し出したメールの場所で待っていてくれるだろうか?
 もしも、待っていてくれないと。。」


そう、思うとますます速く走りたくなる。

右手のカバンが大きく前後にゆれる。
こんなに息せき切って走るのは、何年ぶりだろうか?
彼はそう思うが、
その次には「早くいかないと・・」と思い返して、
何も考えずに、懸命に走る。


発車間際。
駆け込み乗車。
やっとの思いで乗り込んだ「新宿方面」の山手線。
この時間にしては、いつよりは空いている。
クリスマスでお父さんたちが、まっすぐ帰宅したのだろう。
呑んでかえる人たちにとっては、まだ早い時間なのもある。

彼は、あがった息で乗り込む。
肩で息している。
駆け込み乗車のせいだけじゃない。
駅までの道のりを走ったことによることが大きい。

車窓からは、翳りだした月明かり。
いつも見慣れた風景が過ぎていく。
向こう側にモノレールの姿が見える。

やっと、少し落ち着く思いになる。
でも、落ち着いて気が付くことがある。

彼は思い出して、ふとカバンに手をやる。
懸命に走った彼。
彼自身を思い出したからだ・・・。

そう、今日はクリスマスだ。
彼は、すぐカバンを開けて確認する。

「大丈夫だ・・・崩れていない・・」
キレイにつつまれた小箱が無事だった。。。 ホッとする。

再び、つり革に手を戻すと・・・。
「渋谷」までの時間を思う。
あと、15分・・・。
まだ、もう少し、もどかしい時間があった。

次へ。

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